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TVアニメ「ゾンビランドサガ」が好きすぎて佐賀へ移住。そんな介護福祉士に佐賀と介護の魅力を聞いてみた

TVアニメ「ゾンビランドサガ」をご存じだろうか。2018年に放送された佐賀県が舞台のTVアニメ。ゾンビになった7人の少女らが佐賀県を救うためにアイドルグループ「フランシュシュ」として活動する様子を描く。作中には佐賀県内のさまざまなスポットやグルメが登場する人気作である。

そんなゾンビランドサガに熱中したことがきっかけで、佐賀に移住を決めた男性がいる。職業は、介護福祉士。移住の決め手は?なぜ介護の道に?介護職の魅力とは?お話を伺った。

お話を伺った方

田畑 貴広

社会福祉法人 天寿会 特別養護老人ホーム玄海園 勤務

田畑 貴広

福岡県出身。専門学校卒業後、新卒で自衛隊入隊。その後、CDショップで接客を担当後、自動販売機の管理の仕事に転職。専門性が高い仕事がしたいと考えて、介護福祉士の専門学校へ。2018年、ゾンビランドサガに出会い、佐賀に聖地巡礼。2020年3月に佐賀県に移住。介護福祉士として働いている。

佐賀の控えめで温かな気質に惹かれて

ーー田畑さんが移住されたきっかけは、ゾンビランドサガだと聞きました。経緯を詳しく教えてください。

僕は元々福岡県に住んでいて、佐賀県には何度か足を運んだ程度でした。特に良い印象も悪い印象もありませんでしたね。2018年、TVアニメ「ゾンビランドサガ」がスタート。大ハマりし、聖地巡礼のために舞台となった佐賀県唐津市などを訪れました。何度か巡礼するうちに、佐賀はすごくスペックが高い県だと感じるようになったんです。

というのも僕の趣味は写真を撮ること。有明海の干潟や虹ノ松原など美しい風景がたくさんあることに気づきました。また、何度も訪れるうちに地元の人たちとの交流も生まれて、佐賀の人たちの気質に温かみや親近感を感じるようになりました。

田畑さんが撮影した佐賀の風景

ーー佐賀の人たちのどんなところに惹かれたんでしょうか。

佐賀の人は、控えめな方が多くて、観光に来たと言うと、びっくりした様子で「佐賀はなんもなかよ」とよく仰るんです。ただ、「何もない」と話す一方で、地元を愛している方が多いのが、いろんな方と関わるうちにわかってきました。「佐賀のこんなところがいいですよね」と僕が伝えると、すごく喜んでくれて、さらに良いスポットを教えてくれました。

飾り気がなくて、前のめりに主張するわけではないけれど、切々たる郷土愛を心に秘めている佐賀の人達が、佐賀の美しい風土と同じくらい好きになっていったんです。

どんどん佐賀のことが好きになり、いつの間にか週1回通うようになって。自然と、ここに住みたいと思うようになりましたね。

ーー実際に移住する上で、苦労はなかったのでしょうか?

すでに地元の人たちとのつながりができていたため、不動産屋さんを教えてもらったりもしました。とはいえ、僕のようにつながりがなくても大丈夫です。唐津市には「お試し移住」の制度があり、最大1ヶ月住むことが可能で、地域の雰囲気を見極めると同時にその期間に家や仕事探しができます。僕もその制度を利用して、スムーズに家探しができました。移住を支援するNPO「唐津Switch」でオンライン移住相談なども行っています。

よく移住で苦労するといわれている点は、地元の人たちとのコミュニケーションだと思います。「なんかようわからんよそ者がきたね」という具合に、警戒されるケースです。僕は移住後、積極的に地域の集まりや行事に顔を出して、地域の一員として貢献したいという気持ちを、行動で示しました。もちろん、それは義務感からでは無く、良くしてくださる方たちに恩返しがしたいという思いがあってです。というのも、移住してすぐに近隣の方にとてもよくしてもらったんです。そうすることで、最初は警戒していた地域の人たちも受け入れてくれるようになったと感じています。移住して3年になりますが、非常に楽しい生活を送っています。


地域の文化や風習に触れられるのが介護の魅力

ーー佐賀に来る前に介護福祉士の資格を取得したとのことですが、介護の仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。

僕は長年、CDショップで接客の仕事をしていました。地方のショッピングセンターにある店舗だったので、若い方もいれば、地元のおじいちゃんおばあちゃんがカセットテープを注文することもあって。幅広い年代の人たちとのコミュニケーションが求められる仕事でした。

その後は、自動販売機の管理の仕事を経験しました。自分ひとりで完結する仕事をするうちに、やっぱり人と接する仕事が好きなんだと再確認しました。

そこで接客で、かつ専門性のある仕事ができないかと考えていた頃、大阪で働いている友人から介護福祉士の仕事を勧められたんです。詳しく聞いているうちに、面白そうだなと感じましたね。

ーー具体的にどんなところに惹かれたんですか?また、介護の道に進む上で悩みはありませんでしたか?

友人からは、高齢の人たちの文化や風習に触れるのが楽しいと聞きました。昭和初期生まれの方々は戦争を体験されていて、私たちとは価値観も大きく異なります。毎日、新鮮な体験ができて面白い、と。

その友人は、相手の生活に深く踏み込む仕事ゆえの辛い部分などの負の部分も包み隠さず話してくれました。とはいえ、自衛隊を経験しているなら全然苦じゃないよと言われて(笑)。また、自動販売機の管理は雨風にさらされる仕事だったので、正直、冷暖房完備の環境がすごくありがたいですね(笑)。

ーー介護福祉士の専門学校に通い始めて、介護の仕事に対して思い描いていたイメージとのギャップはありましたか?

特にありませんでしたね。むしろ、接客業と似ている部分があるなと感じました。接客の仕事で大事なのは、相手が何を求めているのか、察して働きかけることです。CD販売でも、先回りして「このCDどうですか」と提案すると喜んでくださることがあって、すごくやりがいを感じました。介護の仕事にも通ずる部分があると感じます。介護の現場では、認知機能が衰えていたり、意思疎通がうまくできない方も多く、自分の気持や望みをうまく伝えられないという方も少なくありません。そういった方々が何を求めているのかを考えて、それを実践して喜んでもらえたときは、本当に嬉しかったですね。

 

アニメ放映中は有給取得で万全の推し活!

ーーまさに天職だったんですね!転職活動はどのように進めたのでしょうか。

介護福祉士の仕事を勧められたときは、友人のいる大阪に移住する予定だったんです。ただ、ゾンビランドサガに出会ったことで、大きく方向転換。佐賀で仕事を探すことにしました。介護福祉士は資格さえあれば、日本全国どこでも働けるので、タイミング的にもベストだったと思います。

転職活動で重視していたのは、ワークライフバランスです。年間休日数や有給の実績、賃金の面である程度絞り込んだ上で、施設の理念や雰囲気を重視しました。現在の勤め先は、自分の希望とマッチしたものでした。

ーーたしかに、移住の経緯から見ても、私生活の充実は大事ですよね!現在はどのような施設で、どんな勤務形態で働いているのでしょうか?

特別養護老人ホームで正社員として働いています。シフトは、日勤、遅出、夜勤の3つに分かれていて、希望をもとにシフトが組まれます。休みについては柔軟に対応してくれますし、スタッフ同士で「お互い様」という雰囲気が根付いているので、持ちつ持たれつの関係で支え合えているように思います。

ちなみに、アニメ2期があった2021年4月からの3ヶ月間は、一番早く視聴できる時間帯が木曜夜だったので、木曜夜と金曜は休みを取りました。放送後は神経が高ぶってなかなか寝られないからです(笑)。最終回は、興奮しすぎて仕事にならないと思い、3連休を取得しました(笑)。もちろん、その前後は全力で穴埋めをしましたが、柔軟に休める環境は本当にありがたかったですね。

田畑さんの推しメンである「伝説の昭和のアイドル・紺野純子」との2ショット。

 

直接の意思表示がなくても、想像して働きかける

ーー施設の雰囲気が伝わってきますね!仕事を実際に始めてみて、苦労はありましたか?

方言や地名に馴染むのは大変でしたね。聖地巡礼で佐賀を訪れていたとはいえ、ご高齢の方は方言が強い方も多くて。はじめは、何を話しているか分からないことも多かったです。また、利用者さんとの話でも、スタッフとの話でも、会話の中で地域の細かい集落の名前が頻繁に出るんです。それをしっかり覚えないと、意思疎通が難しいなと感じましたね。

この課題に対しては、スタッフに聞いたり、SNSで佐賀の友人に聞いてみたり、ネットで調べたりして補いました。元々、地域の風習に触れる面白さに惹かれていたので、地域のことをどんどん知るのも楽しかったです。3年経った今は、方言や地名で苦労することはなくなりました。

ーー介護の仕事をしていて、印象に残っているエピソードはありますか?

ある利用者さんは、意思疎通が取れるものの、佐賀県民らしく遠慮しがちな方でした。会話の中で、地元の唐津城や虹ノ松原を懐かしむ様子が見られました。とはいえ、コロナ禍で外出はできません。リフレッシュになればと、僕が趣味で写真を撮っているとお話ししてみたんです。すると、「いつか機会があったら見てみたいね」と言われました。

そこで、試しに「印刷したものが余ったので、よかったらどうですか」と渡してみたんです。するとすごく喜んでくれて。思い出話に花が咲き、次はこんな写真を見せて欲しいと、どんどん話が弾みました。気を遣わせないように「余ったから」と言葉を添えたことで、喜んでもらえたのだと思います。自分自身の趣味が役に立ったことも嬉しかったですし、本人の直接の要望がなくても、働きかけてみる大事さを実感しました。

ーー田畑さんが、一人ひとりを見て、コミュニケーションを大事にしているのが伝わってきます……!

若い頃のように自由に動けないもどかしさを強く感じていらっしゃると思うんです。介護福祉士でも、そのフラストレーションを100%解消してあげるようなことはできません。僕が大事にしているのは、ベストではなくベターです。その人のために何ができるのかを腐らずに考え続けていきたいと思っています。

そのためには経験はもちろん、相手への深い理解が必要な面も大きいです。例えば、利用者さんで意思疎通はできるけれど、昼間はずっと椅子に座って、ぼーっとされている方がいました。「その人は昼間はのんびり過ごす人だ」と決めつけるのは簡単です。しかし、職場の同僚が計算ドリルを渡してみると、熱中して解き続けられたんです。元々は漁師に嫁いで、経理関係の仕事を任されていたとのことでした。こうやって本人の人生を紐解いて、その人に合った提案をすることは、認知機能や運動機能の向上にもつながります。自分ももっと経験を積み、利用者さん一人ひとりを知ることで、引き出しを増やしていきたいですね。

介護の本質は、一人ひとりに生活の喜びを見いだしてもらうこと

ーー素敵なエピソードですね。田畑さんからみて、どんな人が介護の仕事に向いていると思いますか?

介護といえば、食事・入浴・排泄の三大介助の仕事を思い浮かべる方が多いと思います。しかし介護職の本質は、利用者さん一人ひとりに生活の喜びを見いだしてもらうため、私たちスタッフが何ができるかを考え、働きかけることだと思います。

介護職に就く人は、人が好きでやさしくて、情熱的な人みたいなイメージがあるかもしれません。でも僕は、ある程度ドライな目線がある人にも向いていると思います。人が好きで、感情を込めすぎると、見誤ることがあるからです。介護はあくまで自分が主体ではなく、利用者さんが主体です。好奇心を持って何かを観察することが好きだったり、俯瞰して物事を見ることができる人にもどんどんきていただきたいですね。

また僕のように、移住を考えていたり、地域のことをもっと深く知りたい人にもおすすめです。介護の仕事ほど、地域の中で密度の濃い時間を過ごしてきた人と関わることができる仕事はなかなかありません。将来的に住みたい地域がある人には、ぜひ検討していただきたいですね。

ーー最後にここまで読んでくださった方へのメッセージをお願いします。

介護は苦しい仕事だというイメージがあるかもしれませんが、僕のようにワークライフバランスを重視したい人にもおすすめです。施設によってさまざまな勤務形態がありますし、実は残業も少ないんです。僕のように、趣味のアニメを目的に有給を取得することだって夢ではないと思います(笑)。「きつい」などのステレオタイプで躊躇している方は、ぜひ一歩踏み出してみていただきたいですね。

最後に、ゾンビランドサガは映画化も決定している、超人気作です!まだ視聴していない人はぜひ見てください!そして佐賀に遊びに来てくださいね!