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「あなたがいてくれてよかった」
感謝の言葉がホームヘルパーのモチベーション

武雄市北方町の四季折々に美しい花が咲き誇る「きたがた四季の丘公園」そばにあるホームヘルプ事業「杏花苑」。
朝8時半、準備を整えたホームヘルパー9人は、利用者の元へ訪問介護に向かいます。ホームヘルパーは高齢者や障がい者の日々の暮らしから人生の最期を迎える日まで、身体介護や掃除など生活援助をして支える大事な存在です。
今回は、同事業所で約18年間、ホームヘルパーとして地域を支えてきた下ノ原徳子主任と浦川涼子さんに仕事のやりがいなどを聞きました。

お話を伺った方

ホームヘルプ事業 杏花苑

ホームヘルプ事業 杏花苑

 下ノ原徳子(左) サービス提供責任者 主任
  入職 2005 年 訪問介護員(ホームヘルパー2級)、介護福祉士
  浦川涼子(中)  サービス提供責任者
  入職 2005 年 訪問介護員(ホームヘルパー2級)、介護福祉士
  寺元真由美(右) 施設長

仕事ばかりか家族の介護にも役立つホームヘルパーの資格

ーーホームヘルパーと訪問介護員との違いは何ですか。資格は必要ですか。

下ノ原さん/浦川さん( 以下 、敬称略 ) : 「 ホームヘルパー 」( 以下ヘルパー )は通称で 、正式 名称は「訪問介護員」です 。
一般の利用者の方には、正式名称より「ヘルパー」の方が浸透しているようです。利用者さんには「ヘルパーさん」という呼び名が馴染み深いのではないでしょうか。
ヘルパーになるためには、資格が必要です。2人とも18年ほど前に、介護とは全く関係のない職場で働きながら資格取得講座を受講し、ホームヘルパー2級の資格を取得しました。
2012年度にホームヘルパー1級や2級の資格は廃止になりましたので、これからヘルパーを目指す方は、介護福祉士の資格または、介護の基礎を学ぶ「介護職員初任者研修課程」の受講が必要になります。

ーー訪問介護員になったきっかけは何ですか。

下ノ原 : 高齢の祖母のため、というのがきっかけです。両親は共働きで夜遅くまで働いていましたから、祖母が親代わりで私を育ててくれました。どこへ行くのも一緒でしたね。そんな祖母に認知症の症状が少し出て、サポートするために専門的に学びたいと思いました。資格取得して祖母はすぐに亡くなりましたが、今はヘルパーとしての経験が、80代の両親のケアに役立っています。部屋が片付いていなくても、両親に「なんで掃除せんと」という怒りは沸きません。年相応で、できないのが当たり前と知っているからです。何も知らないよりも知っていた方が楽な介護につながりますよ。

浦川 : 地元でヘルパー3級(生活支援のみ)資格取得の講座があるのを知り、「行ってみようかな」という軽い気持ちで受講したのがきっかけです。身体介護、生活支援の勉強をしていると仕事につながるだけでなく、家族のケアにとても役立ちました。
義父を自宅で看取ったのですが、ヘルパーとしての経験から納得のいく見送りができました。
下ノ原主任が言うように、何度言っても忘れる両親にイライラして「さっき言うたやん」と言い返すことはないですね。「あっ、そうよね。忘れたんだね」と冷静に対処できるので、自分の気持ちも楽です。

下ノ原さん(左)と浦川さん(右)

身体介護と生活支援で日々の暮らしを支える  

ーーヘルパーの仕事内容を教えてください。

下ノ原/浦川 : 介護保険に準じて介護を必要とする高齢者や障がい者の方に身体介護や生活援助を行います。
身体介護とは、安全に入浴を行うことができるようサポートする入浴介助や食事、移動、更衣、排泄介助など、身体に触れる介護をいいます。生活援助とは、日常生活に必要な掃除、洗濯、買物、料理など、直接身体に触れない支援をいいます。
生活援助は一度にすべてをやるわけではなく、定期的に訪問します 。体位変換、トイレ介助などは時間を決めて、1日に数回訪問する場合もあります。それぞれ体の状態が違いますから、利用者の方にどんなサービスが必要なのかを知って、ケアマネジャーの計画を基にこれらのサービスを提供しています。

ーー利用者の「お願い」をお断りするケースもあるそうですが、どんな場合ですか。

下ノ原/浦川 : ヘルパーができる仕事とできない仕事は決まっています。たばこやお酒などの嗜好品や灯油の購入、金融機関などでのお金の出し入れ、発疹に薬を塗るといった簡単なことでも医療行為はできません。買い物も利用者ご本人の分しかできないですね。「孫が来るから、ちょっと買ってきてほしい」というお願いも、気持ちはよく分かりますが断るしかないんです。
ルールは変えられないので、ヘルパーから直接ではなく、利用者さんの気持ちも推しはかりながら、主任やケアマネジャーから話をしてもらっています。また、毎回、同じ利用者さんのところに同じヘルパーが行かないようなローテーションを組んでいます。要望には何でも応えてあげたい気持ちもありますが、ヘルパーとしてルールを守ることで利用者さんと良い関係が築けるのではないかと思います。

生活補助ではベッドメイク、シーツ交換など生活に必要なことを支援します

 

ーー平均的な一日の流れを教えください。

下ノ原/浦川 : 杏花苑の場合、日勤は午前8時半~午後5時半。持って行くものを準備して、訪問先に向かいます。到着したら、その日の計画に沿って身体介護や生活援助を行います。訪問件数は1人あたり1日4~5件ほどです。
1回の訪問時間は利用者さんにもよりますが、約45~60分です。いろんな仕事をしながら、利用者さんともできる限りお話をして、次の利用者さんのお宅へ向かい、午前中の訪問を終えます。昼は12時半に事業所に戻って昼食と休憩を取り、午前中の訪問先での様子を共有するためにミーティングを午後1時半から30分ほど行い、その後、夕方まで訪問先に向かいます。
夜勤や深夜訪問の場合は、体位変換や排泄介助が必要な利用者さんのところへ、午後9時、同10時半、午前0時半からそれぞれ、約30~60分訪問する場合もあります。
杏花苑の訪問する地域は、武雄市や大町町周辺となっています。

「クルマでの移動は気分の切り替えにつながる」と浦川さん

自分の成長への充実感も得られる

ーーどんなところにヘルパーの仕事のやりがいを感じますか。

下ノ原/浦川: 2人ともヘルパーを辞めたいと思ったことがないんですよ。他のヘルパーにも「やりがいって何?」と聞きましたが、「あなたたちがいるから生活できる」「待っとったよ。ありがとう」など言葉をもらったり、「言葉には出さないけど感謝の気持ちを感じた」と言う人が大半でした。また、訪問して間もなく容態が急変して亡くなった利用者さんに「何の力にもなれなかった」と悔やんでいたら、家族の方から「一緒にいてくれるだけで心強かった」と言われて嬉しかったという声もありました。
この仕事は、人や命の尊厳を考える機会に恵まれていて、その人の最期まで寄り添える充実感や、自分自身の成長を感じ、充足感を得たという人もいました。ヘルパーそれぞれに心に響くエピソードがあり、やりがいを感じています。

ーー「ヘルパーを辞めたいと思ったことがない」というところですが、どんな魅力があるのでしょうか。

下ノ原/浦川: 事業所によって異なると思いますが、杏花苑では9人のヘルパーが約30人の利用者さん全員のことを知っているので、昼食中や昼食後のミーティングなどで分からないことがあってもみんなで話し合えるのがありがたいです。1人で抱え込まなくてもいいし、9人から多角的にアドバイスがもらえるので、あまり悩みごとはありません。
仕事は大変と言えば大変ですが、ヘルパー同士のつながりも魅力の一つかな。利用者さんからの情報を共有したり、勉強になることが多く、ヘルパー仲間に助けてもらっていることがたくさんあります。現在、当事業所のヘルパーは全員女性ですから、産休育休などの制度もしっかり利用でき、よかったです。あとは、仕事に対する家族の理解と協力は欠かせないですね。

ーー仕事をする上で心掛けていることはなんですか。

下ノ原/浦川: 利用者さんに寄り添って、コミュニケーションを取ることです。やはり、コミュニケーションは大切ですね。

ヘルパー仲間とのつながりも強い助けになる

必要なのは「察する力」「届ける力」「気持ちの切り替え」など

ーーお2人の経験から、この仕事に向いている人はどんな人だと思いますか。

下ノ原/浦川: これもみんなに聞いてみました(笑)、みんなの意見をまとめると、介護するときは精神的、体力的に余裕がないとよい介護をすることは難しいので、自分の健康管理ができる人。叱られることもあるのでメンタルが強く、気持ちの切り替えができることも大事です。次の利用者さんのところに行って「何かあった?」とばれますから。
ほかに責任感があり、人の気持ちを考えることができ、状況に応じて臨機応変に対応できる人などは向いています。
ベテランヘルパーは「人が相手の職業なので、知識や技術に加え、相手が求めていることを、思い込みではなく“察する力”、押し付けではなく“届ける力”を持った人」が向いていると言います。これは杏花苑のヘルパー全員が納得する言葉ですね。
介護関係の仕事に就く人は、話し好きとか、コミュニケーション能力が高い人が多いと思います。でも、実は私たちは2人とも話し下手で、コミュニケーションを取るのも苦手です(笑)。人と上手に話せる能力があるに越したことはないと思いますが、介護で必要なのは一般的な「コミュニケーション力」とはちょっと違うと思います。
利用者さんの中にもコミュニケーションが苦手な方もいて、無理にコミュニケーションを取ろうとするとかえってストレスを感じる人もいます。まずは相手の話に耳を傾けることが大切です。また、笑顔というコミュニケーションツールは最強です。相手も自然と笑顔になります。

ーーこれから介護の道に進もうかなと思っている人にメッセージをお願いします。

下ノ原/浦川: 多くの生き方と終わり方をみせていただき、自分ができることで手助けをして感謝していただいて、自分も成長の機会をいただくことができるやりがいと充実感のある仕事です。
利用者さんもヘルパーさんも素敵な人ばかりです 。ホームヘルパーは、利用者さんの日々の生活を支える大切な仕事です。ぜひ、介護の道、ホームヘルパーの道に進んでください。

地域で最期まで安心して暮らせるようにしたい

ーー訪問介護事業所の現状についていかがでしょうか。 施設の運営側としての意見をお伺いします。

寺元さん :訪問介護事業所の運営はご存じの通り厳しいです。厳しい運営をよぎなくされる要因はいくつかあります。訪問介護事業所の収入源になる「介護報酬」のルールです。介護報酬とは事業者が利用者(要介護者または要支援者)に介護サービスを提供した場合にその対価として事業者に支払われるサービス費用で、介護報酬の単価はサービスごとに国が定めています。
ヘルパーが行う身体介護と生活支援を比べると、介護報酬は身体介護のほうが高いのですが、訪問介護事業所のサービスに対するニーズは身体介護よりも生活支援が多く、そのため収入が伸びずに閉鎖するなど運営がうまくいかない事業所も少なからずあるようです。

訪問介護事業の現状について話す、施設長の寺元さん(写真右)

ホームヘルプ事業「杏花苑」は武雄市にありますが、近年、周辺地域でも閉鎖している事業所を見かけるようになりました。
一方で、有料老人ホームと併設する訪問介護事業所では、併設するホームへ訪問するときにはヘルパーの移動距離がほとんどなく、車やガソリン代などの経費が抑えられるメリットにより経営が安定しているようです。
現在、ヘルパーさんの平均年齢は約65歳ともいわれています。佐賀では75歳が最高齢で、ヘルパーとして活躍しています。
生活支援では、例えば冷蔵庫の食材からどんな料理を作れるか判断して調理し、掃除、洗濯などもうまくこなすスキルが求められます。ヘルパー自身の家事経験が役立つので、いくつになってもできる仕事ですが、入浴介助など身体介護では体力も必要で若者がヘルパーの仕事を敬遠する理由の一つになっているようです。
訪問介護事業所が運営難で閉鎖になると、地域の高齢者や障がい者の生活に影響を及ぼします。介護保険料は支払っているのに、「保険あって介護なし」ということになりかねません。
訪問先までの移動について加算してもらうなど介護報酬を改定をしてもらえればヘルパーの待遇もよくなり、ヘルパーになろうという若い世代も増えると思います。また、訪問介護事業の継続につながると思います。

ヘルパーの仕事は、即自分の生活にも役立ち、家族の介護にも役立ちます。私たち職員全体で事業所内の働きやすい環境やチームワークを作っていますから、ぜひ、ヘルパーの仲間になってほしいです。