Story14
介護・福祉に大切なのは、
テストの点数では計ることができない人間力
神埼市にある神埼清明高校。教室内で生活福祉系列の3年生が、数日後に小学校で行う出前授業「せいめい福祉教室」の準備を進めています。認知症の方への対応の仕方を、紙芝居や演劇、質問コーナーを交えながら児童に分かりやすく伝えることができるように、ときに熱く、ときににぎやかに笑いながら出前授業当日に向けて工夫を重ねています。
そんな生徒たちを静かに熱く指導するのが原慶介教諭。生活福祉系列の年間スケジュールや将来の介護福祉士を目指す生徒たちが自分で考え、行動できるように工夫していることなどを聞きました。
佐賀県立神埼清明高等学校 総合学科 生活福祉系列 教諭
原 慶介
永原学園西九州大学社会福祉学科を卒業後、市役所にて社会福祉士として勤務
その後、嬉野高校での10年間の教鞭を経て
佐賀県立神埼清明高校で福祉や介護を学ぶ生徒の指導を続けている
ーー先ほど小学校で行う出前授業の準備をしている「生活福祉系列」の教室をのぞいてみましたが、生徒たちはとにかく明るくて楽しそうですね。当日「どこで何時にお昼のお弁当を食べようか」といった話で盛り上がりつつ、児童数や必要な準備品など原先生から当日のスケジュールを伝えられると、真剣な表情になっていましたね。本番さながらの練習では、大きく明るい声で弟や妹に語り掛けるように認知症について語る姿が印象的でした。
神埼清明高校の「生活福祉系列」の生徒たちは普段はどんなことを学んでいますか?
介護に関する知識と技術を学び、「介護福祉士」の国家資格合格をめざす系列です。
高校で学ぶ福祉は「介護」のみというイメージを持つ人も多いと思いますが、実際にはこどもの福祉から障害者福祉、生活困窮など幅広く社会福祉を学んでいます。高校3年間を通して福祉全般を学び、看護・リハビリ・保育系への進学や福祉施設への就職を目指して学んでいきます。
ーーどういった生徒が生活福祉系列を選択していますか?
当校は県内で総合学科がはじめて設置された高校です。専門科目を本格的に選択するのは2年生から。1年生までは生活福祉系列をはじめ、健康・スポーツ系列、情報ビジネス系列といった6つの系列をいわばお試しのような形で学びつつ、最終的に自分に合った科目グループを選びます。2年生以降は、将来の職業を見据えたより専門性の高い授業をしていきます。
生活福祉系列を選ぶ生徒は、入学時から将来は福祉や医療の分野で働きたいという明確な目標を持っている人が多いですね。介護福祉士を目指す場合、国家試験を受けるために欠かせない授業が1年生のスケジュールから入っていますので、入学時から生活福祉系列に目標を定めておく必要があります。卒業後は、特別養護老人ホームや障害者支援施設に就職したり、福祉医療系の大学や専門学校へ進学しています。
ーー年間スケジュールを教えてください。
1年生の4月の新入生オリエンテーションを経て、1年生の冬と2年生の夏と冬、3年生の夏には当校に協力いただいている施設で実習を行います。
1年生の冬、初めて施設に実習に行くときは、みんな緊張していますよ。いきなり実務ではなく、最初は施設見学から始めて、次はお茶を配ったり、掃除を手伝ったりして徐々に慣れていってから実務に進んでいきます。2年生の夏になると、1週間交代で計4週間、4つの福祉施設へ実習に行きます。
2年生の後半からは、生徒手づくりのオリジナル教室「せいめい福祉教室」を開催します。地域の方や小・中学生向けに、例えば認知症の方への接し方の講座を開いたり、手話や車いすの操作、最新の介護ロボットを紹介するなど、福祉のことや介護の技術について教えています。どうすれば相手に伝わりやすいかなど生徒たちで工夫します。
そのほかでは佐賀県立盲学校(佐賀市)と交流学習会を行いました。視覚障がい者の学校生活や、ぶつからないようにするためには声掛けが大事など、生徒同士で話をしながら、福祉や介護について学びを深めています。共に学べる機会をいただけることに、とても感謝していますし、このような環境がある佐賀県を誇りに思います。
また、こうやって専門的な知識を身につけた3年生が、他高校普通科との合同授業の中で、医療や福祉分野に興味を持つ2年生にこれまで施設実習や福祉教室で経験したことや積み重ねてきた知識を伝えることもありました。
ーー介護福祉士の国家資格取得のためにどんな努力をされていますか
当校は生徒に、主体性、協調性、積極性、コミュニケーション力、思いやり、粘り強さ、ストレス耐性、企画力、実行力、問題の糸口を探る能力、最後までやり切る力など、テストの点数では計ることができない能力を身に付けてほしいと思っています。 そのために先ほど紹介した施設実習や「せいめい福祉教室」で企画・実行・振り返りという一連の中から学んでいくスケジュールが多いですね。人に分かりやすく伝えるためには自分自身がしっかり理解していなくてはいけませんから。実習や福祉教室の開催は生徒たちの深い学びにつながっていきます。もちろんテストのための勉強もしますよ(笑)。
テストの点数では計れない積極性など非認知能力を伸ばすことで、国家試験にも対応できる学力が身に付いていくと思います。つまり、テストの点数だけではない、将来介護福祉にかかわるときのために必要な「人間力」を育てることを大事にしています。
ーー生徒さんには、介護をする上でどのような人材になってほしいですか?
介護福祉の世界では、介護技術のマニュアル本はあるものの、答えがない課題に取り組まなくてはいけない大きな壁がたくさん出てきます。なぜなら、人間はひとりひとりに個性があり、ニーズも違います。マニュアル通りみんな同じ対応ではうまくいかないことも多いです。様々な個性を持つ人たちに対して、臨機応変にどう対応していくか。介護の現場に出ても落ち着いて対応できる力を、学校内外の実習や福祉教室開催など多様な経験を通じて身に付けていきます。
実習では3年間で全52日ほど施設を訪れますので、ある程度の現場の雰囲気や仕事の大変さをイメージできているかと思いますが、技術や知識だけでなく「人」を支援していくときに必要となる福祉の気持ちを大切にして仕事に励んでほしいです。 そして相手の立場に立って考え、自ら取り組むことで、さまざまな人たちと協力できる人材になってほしいです。
ーー福祉・介護の世界に興味がある生徒に向けて、ひと言お願いします。
多くの人の心に響く「福祉の世界に興味をもってもらう」ための魔法の言葉があればいいですが、私もまだ見つけきれていないですね(笑)。どの仕事も同じでしょうが、楽しいことばかりではないですから。
生徒たちは「人の役に立ちたい」「祖父や祖母が好き」などの優しい気持ちが根源にあって、この進路を選んだのではないかと思います。そんな気持ちを仕事に役立てることができるのが介護・福祉の仕事です。自分の学びを深めることが、職業人としての質も高めることにつながるのだと思います。
福祉や介護系の専門的な人材はこれからますます必要になってきますので、興味がある生徒さんたちは積極的に学んでいってほしいです。
佐賀県立神埼清明高等学校
https://www.education.saga.jp/hp/kanzakiseimeikoukou/