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Story13

ICTやAIを活用したシステムの導入で
質の高いケアの提供と働きやすい環境へ

高齢者が地域の中で心身ともに健やかに暮らすことを目指す社会医療法人祐愛会 ゆうあいビレッジ(鹿島市)。
敷地内には介護サービスや生活支援のための保健福祉サービスの施設が整備されています。
同法人は介護や看護業務の負担軽減とケアの質の向上にICTやAI、介護ロボットなど最新機器を導入して、
生産性を高める取り組みを行っています。

お話を伺った方

社会医療法人祐愛会 ゆうあいビレッジ

社会医療法人祐愛会 ゆうあいビレッジ

神代修(左)  介護部門統括部長
社会福祉士、介護支援専門員。相談員や居宅ケアマネジャーなどを歴任して現職。
毎熊恵子(中)  看護 介護部長
佐賀大学医学部附属病院、小城市民病院の総看護師長を経て2023年同法人に入職し現職。
山口賢太(右)  療養棟看護師長
織田病院医療安全管理者。2021年看護師特定行為研修を修了し現職。

質の高い介護ケアのためにマンパワーが必要

ーー社会医療法人 祐愛会 ゆうあいビレッジでは何人のスタッフが働いていらっしゃいますか。

神代さん(以下、敬称略) : 当ビレッジの敷地内には、在宅での生活を目指す「介護老人保健施設」(80床)、要介護認定を受け、自宅での生活が困難な方が“生活の場”そして“終の棲家”として利用される「地域密着型特定施設入所者生活介護施設」(27床)、認知症で在宅が難しい方が入所される「グループホーム」(9床×3ユニット)のほか、通所リハビリテーションや訪問介護の拠点があります。それぞれにかかわる医師、介護福祉士、ケアマネジャー、看護師、リハビリスタッフ、支援相談員、管理栄養士、調理師、事務員など240人のスタッフがいます。

多くの介護関連施設をまとめる「ゆうあいビレッジ」

ーー勤務状況を教えてください。

毎熊さん(以下、敬称略) : 業種によって違いますが、入所者がいる施設の平均的なスケジュールは、日勤が午前8時30分~午後5時30分。夜勤は午後4時45分~翌9時15分です。夜勤の場合は夜勤明けの日とだいたいその翌日が休みになります。 入所者の介護の中で最も人手が必要となる朝食や夕食の時間帯には、スタッフを多く配置します。そのために、日勤でも1時間早く勤務に入る「早出」や、昼から午後9時頃まで勤務する「遅出」を設けています。
仕事内容は、朝、洗面と口腔ケア、朝食介助、体温や血圧脈拍、呼吸などの体調管理、9時30分くらいまでにそれらを済ませると、音楽療法士による音楽療法や体操などのレクリエーションでの移動移乗介助、昼食の食事介助。午後からは入浴介助、リハビリ、夕食介助。夕食後、入所者は自室に戻って自由に過ごされます。午後8時~午後9時くらいに就寝です。それら以外にも定時に体位変換、排せつ介助、おむつ交換などを行っています。
午後9時以降、夜勤者は1療養棟に対して2人体制になるので、排せつ時間が重なるときなど、マンパワーがもう少しほしいと思います。

ーー「マンパワー不足」は、ほかの施設でもよく耳にします。

神代 : 施設に対する人員数の基準はきちんと満たしているものの、マンパワーは不足しています。当ビレッジでは、入所者がリハビリなどを頑張って住み慣れた地域に戻り自宅で最期まで充実して過ごすこと、入所者の希望に寄り添うことを目標としているため、それを実現するためにはもっと手厚い介護をするためのスタッフが必要です。
また産休育休で休職や、さまざまな理由で離職するスタッフもいます。職業病ともいえる腰痛を持ちつつ頑張って働くスタッフもいますから、負担を軽減するためにもマンパワーやそれに代わるものが必要だと思っています。

「人材確保とともにマンパワーに代わるものが必要」と話す神代さん(右)

『資格がなくて…』は大丈夫。働きながら資格取得をサポート

ーー介護職の人材確保・教育はどのようにされていますか。

神代 : 介護の仕事をしたいけど、何かしらの国家資格が必要ではないかと二の足を踏んでいる方もいらっしゃるかもしれませんが、介護の仕事は幅広く、必ずしも資格が必要なわけではありません。当ビレッジは資格がない方も歓迎しています。
仕事を始めてから、もっと知識や技術を身に着けてステップアップしたいという人には、働きながら介護福祉士などの資格取得ができるように、資格取得のための研修を受講してもらうなどのサポートをしています。受講料や資格試験の受験料は独自に当ビレッジが援助します。

ーーマンパワー不足を補うためにどんな取り組みをされていますか。

毎熊 : 取り組みのひとつはミャンマーやインドネシア、ベトナム、ネパールなど外国人スタッフの受け入れです。
特定技能者や当施設でアルバイトをしながら資格取得を目指す外国人留学生、国同士が相互の発展を目指すEPA(経済連携協定)の介護分野の交流を活用して、今15人が働いています。外国人スタッフが日本で仕事をするときは不安もあると思いますが、日本人スタッフがフォローしていますから問題なく働いてもらっています。

人の手を補うICTとAIの活用で、スタッフに安心とゆとりが生まれる

ーー人材確保以外ではどんな取り組みをしていますか。

山口さん(以下、敬称略): これまでは介護や看護の現場においてスタッフの経験や主観に基づいてケアをしてきましたが、最近はICTやAIを活用した科学的な根拠に基づく質の高いサービスの提供が求められています。
そこで2019(令和元)年に、主に睡眠の評価をする見守り支援システム「眠りSCAN」を導入しました。
これはベッドマットの下に「眠りSCAN」を敷いておくだけで入所者が横になるとセンサーが感知して、睡眠状態や呼吸数、心拍数といった体動をリアルタイムで測定します。体への接触がないので、利用者の睡眠を妨げることはありません。
この、睡眠状態/覚醒状態か、離床/臥床(がしょう:起き上がっているという意味)状態かなどの状況や、バイタルの測定値はタブレットやステーションにある大型ビジョンにすべてリアルタイムで表示されますから、入所者の状況をすぐに把握できます。

毎熊: 画面には覚醒や睡眠などひと目で分かるように、色で表示できるので外国人スタッフにも好評です。

山口: 入所者のデータは毎日蓄積されて、個々の睡眠と覚醒時間などのパターンが見える化できます。そのデータを基に巡回時間を検討したり、覚醒する時間帯に排尿誘導することができるようになりました。
また、普段の心拍や呼吸数、睡眠と覚醒時間を見える化したことで、体調変化への気づきが早くなり、病気の早期発見につながっています。実際に頻尿症状や睡眠とバイタルデータから入所者の異常を発見し医師に相談。尿路感染症を発見し、内服薬の処方で改善したケースもあります。

ステーションで入所者の状況を確認できる大型モニター(一部写真加工)

神代: 価格は安くないですが、補助金も利用して全床、導入しました。スタッフが経験や主観で判断できるようになるまでは時間が必要です。でもこのシステムは色や数値で表示されてひと目で状態が分かるので、外国人スタッフや経験が浅い人も安心して介護ができます。
少子高齢化もあり、人材が集まらない時代には、人の手に代わるものを探す必要があります。外国の人材の受け入れや人材育成はもとより、ICTやAI、移乗の助けになる介護ロボットなど最先端の技術を導入して介護を多彩に支えるという時代にシフトしてきているように思います。

山口: 実際、「眠りSCAN」の導入で夜勤スタッフの休憩時間が確保できるようになりました。これまでは一晩中緊張感を持って入所者を見守ってきましたが、スタッフが余裕を持って見守ることができるように業務が効率化できています。システム導入がスタッフの安心につながっているようです。
このシステムの主な目的は「睡眠の評価」ですが、個々の覚醒時間から転倒リスクを予測しての巡回が可能になって、ベッドからの転落や、転倒も減っているという効果も出ています。

入力作業や情報伝達の手間が省けるタブレット端末

業務の効率化で生まれた時間は、入所者とのコミュニケ―ションに

ーー介護での先端機器の導入について、そして使用することで変わった事を教えて下さい。

神代: AI機能を使った「安診ネット」も2023年8月からトライアル導入しています。

山口: これまでスタッフが検温後、記録するためにパソコン入力作業が発生していました。それが血圧計、体温計、脈拍計に「Bluetooth」が内蔵されているので、対象者の欄をクリック後、機器で測定すればすぐにデータがタブレットなどに自動入力されます。これにより、記録や入力する作業が不要になっています。

毎熊: 人が行う作業にはどうしてもミスはありますが、このシステムで転記ミスもなくなり、入力作業の手間が大幅に減りました。

山口: 毎日の自動記録から個人の基準域が作成されます。そこで基準域を外れるとデータを分析して異常を検知し、重症度を選別するトリアージのように赤、黄、緑と色分けして知らせます。
当施設は夜勤の看護師は1人ですが、このシステムが看護師をサポートして、利用者の健康リスクを医師へ報告するタイミングの判断材料にもなっています。医師もデータをタブレットで共有しているので、看護師から連絡があれば即対応ができて、異常の早期発見、重症化予防につながっています。
利用5カ月の時点の感想として、「精神的に楽になった」とスタッフの9割が述べています。「バイタルの入力に手間がかからず、30分以上の時間短縮ができた」というスタッフは8割。この短縮した時間は入所者とのコミュニケーションやレクレーションへの参加に役立てているということでした。

神代: 介護の仕事は大変というイメージが強かったと思いますが、ICTやAIの活用で介護保険施設も働きやすい環境に変わってきています。実際に当施設に最先端機器を導入して、介護や看護業務の生産性が高まり、時間的な余裕や安心が生まれて、それが介護や看護の質の向上や利用者に個々に適したケア、重症化の予防につながっています。
介護や福祉関係の道に進むかどうか迷っている若者には、楽しく安心して働くことができる環境が整いつつあることを知ってほしいですね。

ーースタッフにとっては新しい機器の使用で戸惑いが起こらなかったですか?

山口: 若者はタブレットの操作に慣れてますからね。飲み込みが早いですよ。

神代: どんな仕事も大変さや楽しさの両方があると思います。いろんな経験をして、仕事のやりがいを見つけてくれたらいいなと思います。最先端の機器が導入されると、タブレット画面だけを見て、人を見ていないというイメージがあるかと思いますが、自分たちは何のために介護をしているのか見つめ直しながら、今後の入所者様や利用者様との接し方を考えてケアを提供していきたいと考えています。