Story12
将来を見据え優秀な外国人の人材を確保
外国人にも働きやすい環境で受け入れ
近年、介護福祉関連の人材不足が顕著になり、外国人人材への期待が高まっています。
1952(昭和27)年に戦争で身寄りを失った高齢者の生活を支えることを目的に設立した社会福祉法人寿楽園は、いち早く
外国人の人材を受け入れ、現在同法人佐賀事業所(鳥栖市、基山町)では、40人の外国人スタッフが働いています。
同法人 特別養護老人ホーム施設長の鹿毛智水さんに、外国人の人材を受け入れたきっかけや利用者の声などを聞きました。
社会福祉法人寿楽園 特別養護老人ホーム寿楽園 施設長
鹿毛 智水
理学療法士。 帝京大学を卒業し福岡県の病院に勤務。
その後、寿楽園に入職し現在に至る。
ーー外国人スタッフの受け入れ状況を教えてください。
鹿毛さん(以下、敬称略) : ベトナムやフィリピンなど海外出身者は、佐賀県内の4つの事業所で40人、県外の事業所を含めると約70人が働いています。
ーー外国人を採用しようと決めたきっかけはなんでしょうか
鹿 毛 : 2016(平成28年)ごろから少子化で学生が減少し、就職は売り手市場。一般企業を選ぶ学生が増え、福祉を学んでも介護業界に入職しない学生が増えていることを知りました。高校でも介護関係は大変そうというイメージが強く、生徒や親御さんにも敬遠されることが多い状況でした。学校も介護福祉関係の学科を廃止し、外国人の受け入れにシフトするところが出てきました。
このような状況で、当施設でも新卒採用がじわじわと減ってきていると感じていました。新卒が入職しない状況が続くと、将来人材不足で事業が立ち行かなくなります。
当時、神奈川県横浜市に特別養護老人ホームと短期入所サービス施 設を立ち上げたばかりでしたから事業継続を考えると、外国人の採用は避けて通れない状況でした。そこで、2018(平成30)年ごろから外国人採用の担当者を置き、情報収集を始め、まず外国人を採用している社会福祉法人や企業、留学生を受け入れている高校などに出向いて、どのような受け入れ方法があるのか聞き取りをしました。その結果、どこの国から受け入れるかというより、その人が介護や福祉の仕事に向いているかが大事だということが分かりました。
うまくいかない事は、その都度解決していこうと決め、どんな仕事でも良いと希望する外国人では無く、介護や福祉の仕事を希望する方を採用することにしました。
ーーどういった方法で外国からの人材を採用されたのでしょうか。
鹿毛 : 現場で介護技術を学んで技術を自国に持ち帰るために日本に来た「技能実習生」のほか、介護など特定産業分野の 熟練した技術を持ち、在留資格がある「特定技能」を持つ方はもちろん、留学生にもアクセスしようと、あちこち探しました。
当時、佐賀県介護老人保健施設協会が外国人を佐賀に留学生として招き、勉学から介護福祉士の資格取得までサポートする 取り組みをしていましたから、そこで介護スキルを取得した留学生を採用したり、信頼できる仲介業者にもお願いしました。
その仲介業者は海外の日本語学校と連携し、日本で技能を学びたい学生を募集しています。介護分野の技能を学びたい人 と私たちのような業種が現地で面接して、日本に来てもらうという段取りです。宗教や国が違うと社会的な慣習など異なる ことも出てきますから、仕事のやり方や契約のことなど、細かくプロセスを踏んで話し合い、一つ一つ対応していきました。
ーー外国人スタッフをどの程度受け入れようと考えていましたか。
鹿毛 : 2019(令和元)年に初めて技能実習生の外国人2人を採用しました。その後は年に2~3人程度、徐々に増やしてい こうと考えていました。でもコロナ禍で外国人が日本に入国できなかったり、離職者が増えたため、どの業界も人材不足で、 外国からの人材は奪い合いになりつつありました。少人数ずつ採用していたのでは、人材不足を補えないかもしれないと採用に力を入れ、2024(令和6)年2月現在、佐賀の事業所ではスタッフ350人中40人の外国人が働いています。
外国人スタッフは、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなど東南アジアの若者が多い国からの受け入れが多いですね。若者の人口比が多い国では家族が祖父母のお世話をすることが多いため、日本のように介護の仕事が存在しないんですね。自国でいずれ高齢化が進んだときに、介護の分野で役に立ちたいという思いを持っている若者は多いようです。
ーー利用者さんからの評判はいかがでしょうか。
鹿 毛 : 外国人も日本人同様、きちんとあいさつができるなど、基本的な常識が身についているかなどを見て採用しています。 利用者やスタッフからも「丁寧に対応してくれている」と評判がよく、問題なくお仕事をしてもらっています。分からない部分 は日本人に限らず、外国人の先輩スタッフが教えることで、仕事の内容やコミュニケーションの取り方もより深く伝わってい るのではないかと思います。
神奈川の施設では、英語を話す入所者の方もいて、外国人スタッフと英語でやりとりしていることもあるようですよ。
外国人スタッフは若い人が多いし、日本人スタッフにはベテランもいますので、組織としてはバランスがよく、職場の雰囲気 も明るく活力がありますね 。日本人スタッフも、どういうふうに教えたらいいのか、どうすれば理解してもらえるのか、研修のやり方や伝え方を日々工夫しています。
ーー外国人スタッフを採用して困りごとはありますか。
鹿毛 : 特定技能や留学生は介護のことを学び 、技能実習生も日本語を学んで入職していますから 、特に困りごとはありません。夜勤に入っている外国人スタッフもいますし、日本人同様に仕事をしてもらっています。
ただ夜勤から日勤、日勤から夜勤のスタッフとシフトをチェンジするときに、スタッフ間で申し送りをしますが、その内容は日本語で記録する必要があります。外国人スタッフが日本語で記録するのはハードルが高いので、例えば入居者の方にどんなケアをしたのか記録する「介護情報管理」を音声入力で記録ができるシステムを導入しました。大事な研修の資料は仲介業者の通訳に翻訳してもらいます。外国人スタッフが負担なく働き続けられるよう、施設側が工夫していくことも大事ですね。
こういった工夫が、ノウハウとして蓄積され、今後さらに外国人スタッフを受け入れるときに役立つと思っています。外国人が働きやすいように、施設側が歩み寄らないと、外国人スタッフの受け入れは難しいかもしれないですね。
小さなトラブルがあっても、個別にきちんと対応していけば特に困ることはありません。利用者と外国人スタッフの意思疎通 ができなかった場合は、別のスタッフがサポートするなど、ケースごとにどう対処するかしっかりルールを考えておけば大丈夫だと思います。この業界で一番の課題は人材確保をどうしていくかということです。入職してくれない日本人を待つよりも、意欲のある外国人の育成にシフトチェンジする、という方法が今後の事を考えても現実的です。
ーー介護人材への外国人雇用について今後の展望があれば教えてください。
鹿 毛 : 日本に来て仕事をしよう、技術を学ぼうという方はそれだけ行動力もあり、多言語を操るなど優 秀な人材が多く、しっかりキャリアアップを考えて学び、将来リーダーになる人も多いと思います。
私たちも外国から人材を受け入れた当初から、外国人スタッフが将来管理職となることもあり得ると予想していましたが、そのための取り組みは遅れていました。これからは、外国人リーダーの育成をどうしていくか考えていくことが必要になっていくと思います。また、外国人スタッフのスキルアップと日本で長く働いてもらうために国家資格を取得するためのサポートをどうしていくか、今後考えていく必要があります。
佐賀県でも人材不足は顕著です。日本人の働き手がいないならば、外国人の雇用を進めていくしかありません。幸い、県が主体的に取り組んでいるので、佐賀で介護の仕事をしたいという外国人が多いのではないかと感じています。
一人一人、日本人の介護スタッフを育てることと同じように、外国人を受け入れ、育てていくことが当たり前になればと思います。