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介護とお笑いはすごく似ている職業。佐賀出身お笑い芸人オラキオさんが語る介護を通じた社会貢献とは

お笑いと介護。相容れない存在のように思えるが、この二足のわらじを実践しているお笑い芸人がいる。「細かすぎて伝わらないモノマネ」で有名な、佐賀県鳥栖市出身のオラキオさんだ。
介護とは無縁だったというオラキオさんが介護の道に進んだ理由とは?介護とお笑いの親和性、そして介護の世界を盛り上げるために目指していることについてお話を伺った。

お話を伺った方

オラキオ

お笑い芸人

オラキオ

1977年佐賀県鳥栖市生まれ。高校時代には3年連続でインターハイ・国体に出場していた体操選手であり、その経験をいかした「細かすぎて伝わらないモノマネ」が人気。2019年に介護職員初任者研修、実務者研修を受講。2020年から、介護人材の定着支援サービス「kaigo FIKA」のプロフィッカー第1号を務める。サガン鳥栖の大ファン。

飲み会のノリから介護の仕事をスタート!?

ーー長年お笑いの世界で生きてきたオラキオさんが、介護の世界で働くことになったきっかけを教えてください。

たまたま飲み友達から、ある特別養護老人ホームの施設長を紹介され、一緒に飲むことになりました。はじめは介護とは関係のない話をしていたのですが、酔いも回ってきた頃、施設長さんが「気に入らないことがある」と啖呵を切り出して。「よく芸能人が不祥事を起こしたときに、禊(みそぎ)や充電として介護業界で少しだけ働く。僕らは毎日やっているのに、禊のように扱われているのが気に食わないんですよ」とおっしゃっていたんです。確かにその通りだと感じましたね。その後「オラキオさん、禊とか関係なく、介護をやってみてくださいよ!」と煽られて(笑)。僕も酔っ払っていたので、「ならばやりますよ!」と勢いで返事しました。

その場はそこで解散したのですが、翌日「オラキオさん、本当にやってくれますよね?」と改めて聞かれて。酒の場のノリで答えたことではありましたが、「僕にできることがあればやります」と快く返事しました。

ーー介護にきついイメージを持たれる方も多いと思うのですが、なぜ快諾されたのでしょうか。

僕は、おじいちゃんやおばあちゃんと関わる機会がほとんどなかったんですよね。だからこそ、介護には何のイメージもなく、とりあえずやってみようと思ったんです。

2019年から研修を受講したのですが、ちょうどコロナ禍にさしかかり、足かけ1年で実務者研修を終えました。介護の現場は、実習時のほんのちょっとしかまだ経験できていないんですよね。だから、介護の本当の仕事の大変さは理解できていないというのが本音です。

 

人間力が問われるのが介護の仕事

ーー実習ではじめて介護の仕事をされたときの印象はいかがでしたか?

マニュアルがあるようでない世界だと感じました。知識や技術があっても対応できないことが非常に多いのが介護の仕事です。ちょうどいいタイミングで、コミュニケーションをとることが求められるのです。利用者さんによって求められることはケースバイケースで、人間力が試される仕事だなと感じました。

僕は、20年芸人をやってきたからこそ、相手を察する力がついていて、介護の仕事を面白いと感じられました。けれど、学校を出て1年、2年の若者たちにとっては、厳しい側面もある仕事だと思います。

ーー「芸人をやってきたからこそ」とのことですが、介護とお笑いに共通点があるのでしょうか?

すごく似ている職業だと思います。お笑いも、同じネタをしても、相手に好印象を持たれているかどうかで笑ってもらえるかが変わりますし、同じケアをするにしても、相手と親しくなることが大事。介護とお笑い、通じる部分ですね。

また芸人をやってきたことで、相手が欲していることを察する力が身についていました。求められるタイミングで面白いことを言ったり、あえて空気を読まなかったりするスキルです。介護も、人の気持ちを察して、タイミングよくコミュニケーションを取ることが求められます。

 

月1回お笑い芸人と雑談することで、心のガス抜きを

ーー現在オラキオさんは、介護人材の定着支援サービス「kaigo FIKA」のプロフィッカーとして活動されています。そのきっかけや内容を教えてください。

縁があった施設長さんが協力しているプロジェクトが、kaigo FIKAでした。FIKAとは、スウェーデンの伝統文化で、ティータイムのコミュニケーションのこと。業務に追われてコミュニケーションが不足しがちな介護スタッフ同士のチームワークを促進させるために、定期的に雑談をする時間を設けようと考案されました。

元々kaigo FIKAにお笑い芸人を絡める予定ではありませんでしたが、僕が介護の資格を取ったことなどで、プロフィッカーとして参加することになりました。現在は僕が第1号、メイプル超合金の安藤なつさんが第2号で、今後もお笑い芸人を増やしていく予定です。

具体的には、施設の若手スタッフを集め、Zoomを使って月1回1時間コミュニケーションをとっています。僕らプロフィッカーは、参加者の緊張をほぐし、コミュニケーションを促進させる役目を担います。簡単に言うと、雑談ですね。介護とは関係ない話もたくさんしていて、好きな芸能人の話や趣味の話、恋人のことなどいろいろ語り合います。介護の仕事をしている方々は、まじめでおとなしい方もいて、その人たちを単にいじってしまうと、傷つけたり、人間関係がこじれたりしかねません。僕が芸人という立場で、突っ込んだ話をきいて笑いとして昇華させることで、コミュニケーションの活性化につながればと考えています。

大事にしているのは、定期的に開催すること。「楽しかった」だけでは「定着」にはつながりません。1ヶ月おきに機会を設けることで、「そういえば、この前の彼氏の話はどうだったの?」など、会話を続けることができます。月に1回、ガス抜きの機会を設けることで、若いスタッフが「気づいたら、もう1年も働いていた」と思えるのが理想ですね。

※プロフィッカー:kaigo FIKAにて若手介護職員のメンタリング行う人

 

ーーお笑い芸人が介護に携わることにどのような意義を感じていますか?

僕は介護職を元気にすることも大きな意義があると感じています。テレビで見たことがあるようなお笑い芸人が関わることで、喜んでもらえている気がしますね。開催後のアンケートでも、「すごく楽しかった」「芸人さんに突っ込まれるのが初めてだった」などの感想が多く寄せられました。

また、上司の方からも「あの人があんな風に笑っているのを初めて見た」「昔子役の経験があるスタッフがいることを初めて知った。今度レクリエーションを任せてみたい」などの声をいただきました。どうスタッフに接していいか悩んでいる上司も多いため、芸人として介護職同士のコミュニケーションを促進させることは、大きな意味があると感じています。

 

自分が培ってきたお笑いのスキルで、社会に貢献できる

ーーオラキオさん自身、介護業界に関わることでどのようなやりがいを感じていますか?

40歳を超えた頃から、漠然と社会貢献をしたいという思いを持ち続けていました。いつまでも好きなことだけをしていることに葛藤を感じてきたんです。介護業界に関わることになって、日本のためになっていることを誇らしく思います。

飲み会で盛り上げることに使っていたスキルは、先輩芸人さんに褒められるだけだったものが、今は社会貢献になるんです。先日は、kaigo FIKAの関係者から「オラキオさんのトークの持っていき方や、人を見る目をどうにかデータ化して分析したい」と言われました(笑)。自分がこれまで芸人として培ってきたことが、活かされていて非常に嬉しいです。

介護は人生の深みを得られる仕事。やりがいを求めている人にぜひチャレンジしてほしい

ーーオラキオさんから見て、どのような人たちが介護職に向いていると考えますか?

まずは芸人ですね。売れていない芸人は、絶対介護をやるべきです(笑)。

一般の方では、仕事にやりがいを求めている人です。介護の仕事はまじめでやさしい方が向いているイメージがあると思いますが、体育祭で団長をやるような、前のめりでどんどん突き進んでいく人にも向いている仕事だと思います。介護の仕事は正解がないので、自分で考えて、どんどん提案できる仕事です。他の職種よりも、自由に自分なりのやりがいを構築できるのではないでしょうか。

ーー最後に、ここまで読んでくださった方へのメッセージをお願いします。

介護の仕事は、利用者さんの老いや死に関わる仕事です。だからこそ得られることも大きくて、その経験によって、人生の深みが変わってくると思います。若い人から見ると、とっつき難い仕事かもしれません。しかしぜひ一度、自分の人生をよりよくするためにも介護に触れていただきたいですね。

僕は、これからも芸人としてメインの活動をしていきます。芸人としての活躍が、kaigo FIKAの成功や介護人材の定着につながっていくと思います。介護はお金を稼いではいけない、奉仕のイメージがありますが僕はそれが良くないと思うんですよ。僕はkaigo FIKAを通じてお金も稼ぎたいし、それで介護職のみなさんが喜んで施設のコミュニケーションも円滑になり、利用者さんもハッピーになれば、こんないいことはありません。この循環がどんどん回っていくように、活躍していきたいですね。

また、生まれ故郷の佐賀へも、貢献したい気持ちでいっぱいです。佐賀の施設のkaigo FIKAの活用事例はまだないので、ぜひ活用を検討していただきたいですね。佐賀にゆかりがあるお笑い芸人も巻き込みながら、佐賀の介護人材を盛り上げていきたいと思います。