Story09
福祉は人と関わるための学びがいっぱい !!「全国高校生介護技術コンテスト」日本一を誇る嬉野高校の取り組み
夏休み期間中のある日の午後、嬉野高校社会福祉系列の教室から「もう一回やってみよう」と言う先生の声と時折、生徒の弾むような明るい笑い声が聞こえてきます。
「高校生介護技術コンテスト」の全国大会優勝を目指して夏休み返上で練習に励む生徒たちの指導に携わる、社会福祉系列の担当教諭・園辺優子さんに、人材育成について聞きました。
佐賀県立嬉野高校 嬉野校舎 総合学科キャンパス 社会福祉系列 教諭
園辺 優子
永原学園西九州大学社会福祉学科、同大学院を卒業。大学院2年生のとき、大学院生活を継続し ながら大分県の私立高校で教員生活をスタート。その後佐賀に戻り、特別支援学校の臨時講師や 多久高校、神埼清明高校の教諭を経て 2019(令和元)年から現職。
ーー社会福祉系列はどんな勉強をするのでしょうか。
厚生労働省から指定を受けた介護福祉士の養成コースです。高校卒業時に「介護福祉士」の国家資格が取得できるように学んでいきます。
1年生では主に普通科目を、2年生になると社会福祉や介護福祉の基礎、コミュニケーション技術、生活支援技術、こころとからだの理解など座学と実技でしっかり学びを深めていきます。
また、地域の介護施設で1年生は8日間、2年生は 25 日間、3年生は 20 日間の介護実習を行い、経験を積んでいきます。
学内では教師だけでなく、介護施設の職員をお招きして実践的な実技を学んだり、お話を聞いたりしています。外部の方の授業は、生徒たちも気分が変わって楽しいようですよ(笑)。
県内では介護福祉士の国家試験の受験資格が取得できる高校は、当校と神埼清明高校(神埼市)、北陵高校(佐賀市)の3校だけです。介護福祉士の国家資格を取得したい人にとっては最短ルートですね。
ーー生徒に社会福祉系列を選んだ理由を伺うと、「人の役に立ちたい」「人と関わることが好き」「祖父に優しく声を掛けてくれる介護士さんに憧れて」「国家資格があれば将来役に立つかも」「次のステップにつなげるため」とさまざまですね。
私は介護の仕事をやっていくには、まず自分自身を大事にできること、そして相手のことを一生懸命に考える気持ちが大事だと思っています。介護は相手がある仕事ですからね。それに優しさだけではなく、相手が今どう感じているのか、何を望んでいるのか、安全性が保たれているかなど客観的に判断できる冷静さも必要になってきます。
ーー福祉を学ぶ高校生が介護の技術を発表する「高校生介護技術コンテスト」は 2023(令和 5)年度で 10 回を迎えます。嬉野高校は「2人介護部門」で県大会、九州大会を勝ち抜き、全国大会で 4 回優勝を飾っています。23 年度も県大会、九州大会と進み、全国大会出場が決まっています。全国から注目される介護技術は、どうやって生まれますか。
とにかく、相手を思って考えることですね。
全国大会では直前に課題が発表されます。高齢者の体の状態や職業、家族構成、趣味など細かく設定され、シチュエーションも決まっています。その課題に対して選手が手順を考え、どう支援していくのかを競います。制限時間は7分です。
まず、設定された高齢者のバックボーンから、どんな声かけが適しているのか、体の状態からどんな方法で介護するかを生徒たちに考えさせます。それから、なぜそうしたのかをずっと問いながら、根拠を明確にしていきます。そうした一連の流れが介護に必要なことを深く勉強することにつながっているようです。
教師もかなり研究しますよ。今回の九州大会では、介護用移乗サポートロボットを使用してもいいということだったので、最先端の用具を使う意味、説明の仕方などもかなり勉強しました。
ーー九州、特に佐賀は社会福祉関係のレベルが高いと聞きました。
九州は福祉が学べる高校が多いので、九州全体のレベルはかなり高いですね。その中でも佐賀県の高校はレベルが高いという評価を受けています。教師は生徒たちのためになる学びは何かと常に考えていますが、やはり体験が大事ですね。
最近の若者はネット情報を見て分かった気になって、「えー、こんなんじゃない。イメージと違う」と現場とのギャップを感じたり、すぐに諦めてしまうことも多いように感じます。ギャップを埋めるために、まず体験してみることが大事です。
地域で出前授業をしたり、「高校生介護技術コンテスト」などのコンテストに出場して、体験の場をより多く作っていかなければと思っています。
ーー出前授業など地域活動も盛んのようですが、どんなことをされていますか。
本校は昔から、ユニバーサルデザインや認知症などについて広く知ってもらうために、小学校など地域の中に出向いて、出前授業や講座を行っています。例えば紙芝居を作って「始まり始まり~」といった調子で小学生の前で披露したり、認知症サポーターを知ってもらうために地域で講座をさせてもらったりしています。
地域の高齢者を校内にお招きして「嬉高ひだまりサロン」も開催しています。お芝居を通して急な温度変化でめまいがするヒートショックをわかりやすく説明したり、レクリエーションやお話をして楽しんでもらっています。
こうした取組みは、地域の方々とのつながりも強くなりますし、生徒にとっては「伝える力」を養う場にもなります。
何よりチームワークづくりにも役に立っていると思います。介護の現場もチームワークが必要ですから、地域活動に取り組むことで連携する力が養われていると言えます。生徒たちも楽しみながらやっていますよ。そうじゃないと続かないですから。
成長できる経験、心に残るような経験をさせてあげたいと思います。とにかくやってみて成功体験ができれば、その生徒の成長にもつながりますしね。
ーー地域活動のひとつに、介護予防を目的に地元のケーブルテレビで「ひだまり体操」が毎日放送されていますね。
コロナ禍で生徒たちは施設実習に行けなくて高齢者と接することが減りました。そこで「地域とつながる場を作りたい」という思いから、「ひだまり体操」を始めました。ケーブルテレビで毎日昼 12 時から 10 分間放送されています。施設でもお昼にこの番組を見て高齢者が体操してくれているようなのでやりがいがあります。また、今年は自分たちが作詞したオリジナル曲「来い♡恋♡SAGA」での体操を広めていく予定です。
曲決めや体操の内容決め、MC まで、すべて生徒たちがやります。撮影場所は社会福祉系列学校の教室。高齢者が取り組みやすいように座ったままで肩を回したり、「あれ、その動きはさっきと同じやん」などと笑いながら撮影しています。
一発撮りなので NG を出したら、最初からやり直し。撮影には 2 時間ぐらいかかりますが、みんなワーワー言いながら、楽しくやってますよ。
ーー「うまくできなかったら、どうしよう」と不安になったり、人前に出ることが苦手な生徒もいると思います。どう指導していますか。
失敗してもいいんですよ。失敗するのも大事です。それが次につながります。もちろん、不安に感じたり、うまくいかなくて落ち込む生徒もいます。その辺は様子見ながら、4人の担当教諭がサポートしていきます。
教師と生徒の相性の良し悪しはあると思います。人間ですからね。ふわっとして明るいキャラの教師と話すことでモチベーションが上がることもあるし、激励する指導がいいというときもあるのでメリハリをつけています。生徒の性格を見極めて、教師で役割分担をしています。
ーー介護の現場から即戦力としての期待は大きいのではないですか。
就職率は 100%です。現場での実習も経験して、国家資格も取得するので即戦力としての期待は大きいと感じています。
初めて社会に出るわけですから、生徒は大変なことも多いと思います。ただ、卒業生もいろんな職場にいますから、先輩が後輩をサポートしたり、悩みがあれば相談に乗ってくれていたりしているようです。それが、嬉野高校の強みでもありますね。
また、社会福祉系列創設当初からいる教師もいますから、卒業生もよく相談に来ていますよ。
ーー生徒を育てる上で大切にしていることは、何でしょうか。
生徒を生徒ではなく、一人の人間として接していることでしょうか。「先生と生徒」ではなく「人と人」として、人間同士、信頼し合って付き合いたいと思っています。そのために自然体でいることを意識しています。私も失敗しますしね。
先生だから完璧で偉いというわけではないんです。生徒には偉そうに見えてるかもしれないけど(笑)
現場には高齢者や体が不自由な方もいます。職場の仲間には、いろんな年代の方がいます。卒業して間もない頃は、自分よりかなり年上の人と付き合うことになるでしょう。そのときに必要なのは、人としての尊厳を大切に接していくこと。高校時代にそれを身に付けてもらえればと思っています。
ーー社会福祉の勉強は、生徒たちにとってどんなところが役に立ちますか。
福祉の勉強は、人と関わるための勉強だと思います。相手のことを知り、相手を理解し、自分のことを相手にどう伝えるかということを学びます。
高齢者や体が不自由な人の支援をする介護は、単に福祉の一面にすぎず、福祉の勉強は社会で生きていく上で必要な知識やスキルを身に付けられるものだと思っています。
たとえ、福祉の仕事に就かなくても、学んだことはほかの仕事にも生かせると思います。学んだ上で、進路を決めていけばいいと思います。
ーー介護の道に進もうかどうか進路に迷っている若者にメッセージをお願いします。
毎日、社会福祉の勉強や実習で大変だと思いますが、部活動にも励んで青春を謳歌している生徒たちを見て、すごいなあって尊敬します。
介護実習で褒められたり、「ありがとう」と感謝されたり、「人の役に立てた」という実感は、生徒たちを成長させてくれます。
でも、「ありがとう」の中には、自分ができなくて人の手を借りることに「すまないねぇ」という意味を含んだ「ありがとう」もあります。そのことを理解したうえで、相手の思いをくみ取れる社会福祉のプロフェッショナルを育てたいなと思っています
あの人の役に立った、あの人を笑顔にできた、という達成感を持てるような介護福祉士を目指してほしいですね。
国家資格があれば、佐賀はもちろん、全国どこに行っても仕事ができます。ぜひ、介護関係の道に進んでください。
佐賀県立嬉野高等学校
https://www.education.saga.jp/hp/ureshinokoukou-n/