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休みを取りやすく、成長できる職場へ ── 中長期で取り組む、働きやすさの組織改革
佐賀市大和町にある「介護保険総合ケアセンター シオンの園」。開設から40年を迎えたこの施設では今、大きな改革が進んでいます。
同施設が力を注いでいるのは、介護業界の将来を見据えた大規模な職場環境の改善です。最新の介護設備の導入にとどまらず、制度面も含めて組織全体でスタッフの「働きやすさ」の向上に取り組んでいます。今回は、施設長の多田さんと、現場で活躍する介護職員の野口さんにお話を伺いました。

介護保険総合ケアセンター シオンの園
施設長 多田 満さん (左)
介護職員 野口 紗弥香さん (右)
シオンの園では、人手不足などの将来的な課題を見据え、これからも安定して質の高いサービスを届けていける体制づくりを目指しています。その大きな軸となっているのが、2020年にスタートした「中長期計画」です。5年を一区切りとして、スタッフの働き方や評価の仕組みなど、組織のあり方を根本から見直す大規模な改革を進めています。
多田さん: 以前からICTの活用といった業務改善には取り組んでいましたが、毎年行っている職員の満足度調査では、なかなか良い変化が現れませんでした。部分的な改善だけでは限界があると感じたことから、「働きやすさ」をもっと広い視点から考え直すために、この計画を立てることにしたんです。
中長期計画の中では、「長く働き続けられる職場づくり」や「業務の効率化」など大きく5つの柱を掲げ、スタッフ一丸となって改革に取り組んでいます。

── この改革では、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
多田さん: 計画を形にするために、5つの柱に加えて「働き方改革」「人事評価システム」「地域連携」といった6つのプロジェクトチームを立ち上げました。これらのプロジェクトチームには経営陣だけでなく、現場の若手スタッフにもメンバーとして参加してもらい、現場の声を直接、改革に反映させることを大切にしています。
話し合いを進める中で見えてきた課題に対して、建物の改修といったハード面から、福利厚生の見直し、拡充などのソフト面まで、多角的な視点で改善を進めてきました。
多田さん:改革の第一歩として注力したのが、「働き方改革プロジェクト」です。まずは、現場で働いているスタッフの心身の負担を軽減するために、ICTや介護テクノロジ―の積極的な活用に取り組みました。例えば、「介護をしながら、膨大な記録も手書きで残さなければならない」という状況が残業の主な要因となっており、現場のスタッフにとって、記録業務がとても大きな負担となっていました。そこでICTを使った記録システムを導入し、現在はタブレットやスマートフォンで簡単に入力できる体制を整えています。
野口さん: 私が入職した頃はまだ手書きで記録を行う場面が残っていましたが、今はほぼデジタル化されています。ケアをするその場で、スマートフォンのテンプレートにチェックを入れるだけで記録が完成するので、本当に助かっています。 手書きに追われていた時間が減った分、利用者さんとゆっくりお話しをしたり、食事の介助を丁寧に行ったり、本来やりたかった「質の高いケア」に時間を充てられるようになりました。

多田さん:さらに現場の負担を軽くしたのが、「見守りセンサー」の導入です。センサーが利用者さんの体調やベッド上での動きを検知し、体調の異変やベッドからの転落リスクなどを知らせてくれるので、特に夜勤スタッフの負担が大幅に減りました。不必要な巡回を減らすこともでき、より確実な見守りが可能になっています。
野口さん:センサーが計測した心拍数などのデータが時系列で蓄積されるため、体調の変化をご家族へ説明する際にも、客観的なデータを示しながら分かりやすくお話ができるようになりました。当施設では、利用者さんの看取りを行う場合もあるため、この記録はとても大切なものになっています。
仕事の効率を上げるだけでなく、プライベートを充実させるための「休み方」の改革も、働きやすさを考えるうえで重要なポイントです。シオンの園では、働くスタッフ一人ひとりのライフステージに合わせた、さまざまな制度を導入しています。
──休暇や福利厚生についても、かなり手厚い制度を整えられているそうですね。
多田さん: 当施設の年間休日は業界平均よりも多い120日。有給休暇のほか夏休みや冬休みもあり、仕事と休みのメリハリを大切にしています。女性の育休はもちろん、男性の育休取得率も実質100%です。
また、給与面だけでなく「自分自身の成長」も長く働くうえで欠かせません。そのため研修体制を整え、着実にキャリアを積める仕組みも整えてきました。
── 休みを取りやすい雰囲気をつくるための工夫はありますか?
多田さん: 以前から有給休暇の積極的な取得は進めていましたが、ただ「休みを取りなさい」と言うだけでなく、もっとポジティブに休める仕組みが必要と考えていました。そこで、スタッフの意見をもとに「誕生日休暇」や自分の趣味を応援する「推し活休暇」などを導入しました。スタッフが休む目的を堂々と言える雰囲気をつくることで、休暇の取得促進につながっています。

野口さん: 「推し活休暇」という名前で、休みを申請する際の心理的なハードルがぐっと下がりました。私は旅行が大好きなので、夏休みや冬休みもうまく組み合わせて、友達と遠出することもあります。 社会人になっても学生時代の友人たちと変わらず交流を続けられるのは、この休みやすさがあるからこそ。しっかりリフレッシュして、「また明日から頑張ろう」という気持ちで仕事に戻れるのが、ここで働き続けたいと感じる魅力の一つです。
── 若手の職員定着率も高いそうですが、現場ではどのように感じていますか?
野口さん: 私と一緒に入職した同期の介護スタッフは、5年が経った今も誰一人欠けることなく全員が働いています。その後に入ってきた海外出身のスタッフたちも定着しています。 20~30代の若い世代が長く働き続けられているのは、ただ「仕事が楽になった」からだけではないと思います。自分たちの声を聞いてもらえる仕組みがあり、何より一人の人間として大切にされている実感がある。こうした「心の距離の近さ」が、私たちのやりがいにつながっています。

職場改革が本格的に動き出した2021年。シオンの園もコロナ禍という未知の事態に直面していました。感染対策に追われ、本来なら改革どころではない状況でしたが、シオンの園ではこうした状況だからこそ、この逆境を「業務を見直す機会」と捉え、取り組みを進めていったそうです。
多田さん: 当時は感染対策に膨大な時間を割く必要があり、職員の負担は極限まで高まっていました。このままでは現場が立ち行かなくなるという強い危機感があったからこそ、プロジェクトを通して「ムリ・ムダ・ムラ」を徹底的に省くことに注力しました。 大変な時期だからと先送りにするのではなく、今すぐ負担を減らさなければならない。歩みを止めず業務の整理を進めた結果、残業削減や効率化の成果が少しずつ形になっていきました。
また、プロジェクトを進めるなかで嬉しい変化もありました。部署の垣根を越えて議論を重ねるうちに、スタッフ間に強い団結力が生まれたんです。特に若いスタッフたちが、私たちにはない感性でアイデアを出してくれています。通常業務以外でも、彼らの頼もしい一面を知ることができ、経営側としても大きな喜びを感じています。
── 今後、さらにどのような施設を目指されていますか?
多田さん:何より、介護のイメージを刷新したいです。過去の「きつい・汚い・給料が安い」という3Kのイメージから、希望が持て、感謝され、感動を与える「希望・感謝・感動」の新しい3Kを目指し、誰もがポジティブな夢を持てる仕事へと変えていきたいと思っています。
また、日本の人口減少が避けられない中、国が違っても同じ志で働ける「多文化共生」の職場づくりを、さらに深めていきたいと考えています。
現在は中長期計画の1期目ですが、来年度からは2期目がスタートします。2期計画の終期となる2030年に向けて、今よりもさらにスタッフが働きやすく、質の高いケアを届けられる施設になれるよう、挑戦を続けていきたいと思います。
