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スタッフを大切にすることで生まれる質の高いケア — スタッフが働き続けやすい施設の形
佐賀県みやき町にある特別養護老人ホーム「なかばる紀水苑」。
ここでは開設当初から、身体的負担の軽減や業務効率化、さらには手厚い福利厚生に至るまで、現場のスタッフが働きやすい職場環境づくりに取り組まれています。その結果、高い職員定着率を実現し、働く人と利用者の双方が笑顔で過ごせる好循環が生まれています。
今回は、持続可能な介護施設の形を模索し続ける、施設長の末安さんにお話を伺いました。

なかばる紀水苑 施設長
末安 祥子さん
介護現場では、利用者の体を抱え上げる作業が日常的に行われ、介助者の身体への負担が大きな課題の一つとなっています。なかばる紀水苑でも、かつてはこの問題に直面していたそうです。

末安さん:平成15年の開設当初、入浴介助では1人の利用者さんにつき、往復で6〜7回ほど抱え上げる介護をしていました。ベッドから車椅子へ、車椅子から着替え用ベッドへ、さらにシャワーチェアへ。この動作をすべて人力で行うため、スタッフの身体に大きな負担がかかっていました。
このままでは、いずれスタッフの身体が持たなくなってしまうとの強い危機感を持ち、スタッフの身体的負担を軽減する福祉用具の導入を積極的に進めました。
── 具体的には、何を導入されたのですか?
末安さん:
まずはじめに、介助者が大きな力を使わずに移乗をサポートできる、移乗用リフトやスライディングボードと、簡易ストレッチャーを導入しました。これらにより、ベッドからお風呂、そして着替えに至るまで、抱え上げる機会をなくすことができました。
また、移乗用リフトを導入した際には、あるスタッフが「実は腰の負担が大きくて、もう介護の仕事を辞めようかと考えていました。でもこれで辞めなくて済みます。」と言ってくれたんです。そのときは、涙が出そうなくらい嬉しかったです。
今でも、もっと楽に、そして安全にケアをする方法がないか常に模索し続けています。

── 身体の負担軽減だけでなく、記録業務などの事務負担を減らすための工夫についても、積極的に進められているそうですね。
末安さん:
以前は分厚い記録ファイルを持ち歩き、熱計表のグラフまで一つ一つ手書きで書いていましたが、それをすべて電子記録に切り替えました。
電子機器の扱いに慣れるまでは苦労した時期もありましたが、スタッフ同士で教え合いながら使い方に慣れていくうちに、「手書きよりずっと便利で早い!」という声が広がっていきました。これにより、事務作業の時間が大幅に短縮され、その分、利用者さん一人一人とゆっくり向き合う時間を増やすことができています。

── 施設の近くに「企業主導型保育施設」を開設されたそうですが、これにはどのような背景があったのでしょうか?
末安さん:
以前は、育休からの復帰を望んでいても地域の保育所に空きがなく、なかなか職場に戻れないスタッフが少なくありませんでした。そこで、近くに保育所を開設し、出産後もスムーズに職場へ復帰できる体制を整えました。スタッフは無料で利用できるようにしています。この取り組みを始めてから、出産を理由に退職するスタッフはいなくなりました。
また、園児たちが施設を訪問する機会も定期的につくっており、世代間交流の場も生まれています。クリスマスや夏祭りなどのイベントでこどもたちが遊びに来てくれると、利用者さんの表情がパッと明るくなるんですよ。
スタッフが安心して働ける環境をつくることが、結果として施設全体に活気を与えてくれることにつながっています。

── 新人スタッフの支援体制にも工夫を凝らしているそうですね。具体的にはどのようなサポートを行っていますか?
末安:
新人スタッフが孤独にならず、スムーズに現場になじめるよう、先輩がマンツーマンで指導を行う「プリセプター制度」を導入しています。
働き始めたばかりの頃は、「誰に何を聞けばいいか分からない」という不安を一人で抱え込んでしまいがちです。そこで、新人時代の記憶がまだ新しい2〜3年目のスタッフを、プリセプター(指導役)に指名しています。
入職時期の近い先輩がそばでサポートすることで、技術面はもちろん、1年目特有の悩みも気軽に相談できるようになります。また、指導を任される先輩にとっても、自分のスキルを振り返る良い機会となり、教える側・教わる側の双方が共に育つ環境が生まれています。
ペアを決める際には趣味や性格などの相性も考慮し、公私ともに気軽に相談しやすい関係を自然につくれるよう配慮しています。こうした取り組みが、現在の高い職員定着率につながっているのだと感じています。

── 最後に、特別養護老人ホームとして、今後どのような姿を目指していきたいですか?
末安:
これからも「スタッフファースト」の考え方を大切にしていきたいですね。スタッフの心が満たされていれば、その余裕は必ず利用者さんへの温かいケアにつながります。
まずは働く私たちが健やかであること。それがすべての土台になります。そのために昨年からは顧問カウンセラーを招き、スタッフのメンタルケアにも一層力を入れ始めました。
そして私たちは、この地域に暮らす方々にも何か還元できることはないかと日々考えています。そこで、最近始めたのが「高齢者ボランティア」の受け入れです。
自宅で過ごされている地域の高齢者の中には、「移動は難しいけれど、少しでも誰かの役に立ちたい」という方もいらっしゃいます。そうした方々に、施設内で洗濯物の手伝いなどをお願いしています。お迎えに行き、お昼ご飯も食べてもらい、謝礼もお渡しすることで、参加しやすい工夫をしています。
この取り組みによって、高齢者の方にとっては社会参加や生きがいとなり、施設にとっては専門的なスキルを持ったスタッフがケアに集中できる環境が整います。この助け合いの循環こそが、地域の福祉をより豊かにしていくと信じています。

スタッフの満足度がケアの質を高め、利用者や地域の方々の笑顔を増やしていく。「人を大切にする心」が施設から地域へと広がり、関わるすべての人を幸せにする好循環こそが、なかばる紀水苑の何よりの強みです。