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Story04

佐賀県の介護業界の“これから”を、つくる人たち。その輪の広がりは、あなたのすぐそばに

佐賀県内の会議室でとあるミーティングが行われていた。

「OVER80のミセスコンテストっていうのは、どう?」
「いいね! SNSで発信もできそう」
「あ! 制服ファッションショーってできないかな!?」

交わされる会話はまるで、文化祭の準備をしているかのよう。4〜5人の1グループで机を囲み、あふれるアイデアをシートに書き込んでいく。一体どんな人たちが集まっているのだろうか?年齢も、性別も、趣味も、価値観も違う参加者には、1つの共通点があった。それは「佐賀県内の介護従事者である」ということ。

お話を伺った方

西 光明(にし みつあき)

佐賀県健康福祉部長寿社会課 介護指導担当係長

西 光明(にし みつあき)

2005年佐賀県入庁。空港課、報道課などを経て2021年10月から現職

「介護を知らない人にこれは伝えたい!」を見つけるミーティング

2021年12月、「2025年佐賀県介護人材確保戦略ミーティング」が行われた。ワークショップ型のミーティングを通し、介護の魅力を見つけ、その魅力を業界外へどう伝えるかを考えるミーティングだ。

そもそも、このミーティングを開催することになった背景には、介護業界に迫っている深刻な人材不足の問題がある。

2025年、第一次ベビーブーム(1947〜1949年)に生まれた「団塊の世代」と呼ばれる方たちが、後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」。日本の高齢化率は約30%となり、人口の3人に1人が高齢者となる未来がすぐそこまできている。そんな2025年問題で一番の課題とされているのが労働力不足。つまり介護人材不足だ。

しかもこの問題は「これからやってくる」という悠長なものではない。今すでに佐賀県内の介護事業所にもその波は押し寄せている。

2020年度に佐賀県が実施した介護事業所の実態調査では、県内の介護事業所の46.8%が“今まさに”人材不足を感じているという結果が出た。このまま進むと、佐賀県では2025年度に1,147人、2040年度には4,769人の介護人材が不足すると予想されている。

そこで佐賀県庁は、介護に関わる人を増やすため、介護の魅力発信事業というプロジェクトを行っている。プロジェクトに関わる佐賀県 健康福祉部 長寿社会課 介護指導担当の西 光明さんにその想いと目的についてお話を伺った。

西 光明さん(以下、西)「介護人材の確保は重要な課題であると考えています。介護人材の将来推計を見据え、介護に関わる人々を増やしていく取り組みを行っています。

最近は核家族世帯や単独世帯の割合が増加し、親世代と別居していることで、直接、介護に関わることがない方もおられるかと思います。また、介護は身体的にきつい仕事であるといったイメージが先行している部分もあり、「介護の仕事」という選択肢が具体的イメージを持てないままに身近なものになっていないのではないかと思います。

介護は、笑顔で、人と人とのふれあいを通じ、感動と成長を実感できる素晴らしい仕事だと考えています。もちろん人の人生に寄り添う仕事は責任もありますし、大変なこともあります。そのような中でも、いきいきと前向きに、そして自分らしく働く、介護に携わる人々の姿を多くの人に伝え、身近に感じてもらいたい。そして、介護の仕事が、働くみなさまの有力な選択肢となる。そんなことを目指して、魅力発信事業に取り組んでいます」

そのプロジェクトの第一歩として、佐賀県内の介護従事者と一緒に介護の魅力を見つけ、発信方法を考える「2025年佐賀県介護人材確保戦略ミーティング」が開かれたのだ。

介護事業者と行政担当者も一緒にグループワークに参加。ともにアイデアを出した。

介護の魅力を見つけ、新しいアイデアで広げていく

ミーティングの司会進行を務めるのは、佐賀県庁とともに介護の魅力発信事業プロジェクトを進める株式会社Blanket代表の秋本 可愛さん。

4~5人で1グループになった参加者は、自己紹介も済み、最初のグループワーク「佐賀県在住の若者100名に聞きました! どっちで働きたい?」が始まった。これは、介護職 VS 〇〇と題し「介護職と別の職種ならどっちで働きたいか」というアンケートを佐賀県の若者100人にとったという架空の設定をもとに、介護の魅力を探っていくグループワークだ。

秋本可愛さん(以下、秋本)「介護職 VS 事務職で、佐賀県の若者にアンケートをとると、事務職に就きたい若者が多いという結果が。さて、どうして介護職は負けてしまったのか?青いポストイットに思いつく限り理由を書き出してみてください!」

どうして介護職が負けてしまったのか、理由を想像して書き込む参加者。きつい仕事、給料が低いなど世間的に抱かれがちな印象に加え、「事務職と比べたら夜勤がある……」「専門性がハードルになりそう……」など、比較した時にハードルになりそうな視点があげられた。

次のお題は、介護職が勝てた理由をあげるというもの。

秋本「さて、負けてしまったという結果が悔しかった介護職のみなさんは、介護の魅力発信を強化しました。すると、翌年の同じアンケートではなんと事務職よりも介護職を選んだ若者が多いという結果に!どうして介護は勝つことができたのでしょうか?」

すると、ここからミーティングは一転。初対面だった参加者たちも話しやすさが生まれたのか、グループワークは勢いを増していった。

「介護は長く働ける業界だと思う」「しかも、周りのスタッフとチームで働けるよね」「期待できる成長業界だよ」「常に人と関われるのも魅力的だと思う」。一つ、また一つと介護の魅力が書き込まれたピンクのポストイットが机をどんどん埋めていく。魅力が出るたび、共感と賛同の声が各グループから聞こえてきた。

その後、介護 VS ユーチューバー、介護 VS 福岡のショップ店員、との比較が行われた。実はこのワーク、介護が負けた理由=弱み、介護が勝てた理由=強み、をさまざまな角度から洗い出し、見える化するというもの。

普段考えない職種との比較で出てきた介護の強みをもとに、介護を知らない若者たちへ「もっと知りたい」と思うきっかけとなるアイデアを考えるワークが行われた。各グループに配られたアイデアシートには、自由な発想が書き出される。

ともに、希望の持てる2025年を目指して

実際にワークで出たアイデアを一部ご紹介する。

80歳以上の高齢者にスポットライトを当てる「OVER80ミセスコンテスト佐賀」。これは、佐賀県内の服飾系学校とコラボし、佐賀市内の商業施設ゆめタウン佐賀で、各施設のミセスを紹介するというもの。

「介護」や「年齢を重ねること」そのものにネガティブな印象を持たれがちだが、介護が必要になってもいきいきとした高齢者がたくさんいることを、日頃から知っている介護従事者だからこそのアイデアだ。関わる人たちの力で、年を重ねても、介護が必要になっても輝けることを証明できるかもしれない。

こちらは利用者や家族からの感謝のお手紙を、新聞や企画展などを通じて広く一般の人に見てもらうという企画案。実はこのアイデア、ミーティング当日に参加者の1人が持ってきてくれていた家族からのお手紙がアイデアの種となっていた。そのお手紙には、施設でお看取りをした利用者の家族からの感謝の気持ちが、5枚の便箋にたっぷりと詰まっていた。なかなか伝わりづらい介護の仕事の価値を、ご本人や家族の想い、感謝を見える化して伝えるという現場ならではの企画案が生まれた。

生まれたアイデアはグループごとに全体発表を行い、参加者全員に共有された。グループメンバーとともに考えたアイデアを発表する参加者も、その斬新さに驚く参加者も、その顔は笑顔と活気に満ちていた。このミーティングから、新たな取り組みがカタチになる日も近いかもしれない。

現在、介護業界の人材確保は厳しさを増している。しかし、その渦中にいる介護従事者はみな、力強く前を向く。一歩一歩、隣と手をつなぎながら未来を創っている。新しい発想力で、介護がもつ魅力の輪を今まさに大きく広げているのだ。もしかしたらその輪にあなたが加わる日が、もうすぐそこまできているのかもしれない。