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special 特集

Story16

介護が必要な方のお世話をし、
自立を支援する専門職、介護福祉士

ショートステイの利用者さんが健康体操をする広間の中心に座り、大きな声と笑顔で「足を上げて~」と声をかける
介護福祉士の野口清孝さん。介護とはかけ離れた工業高校の出身ながら、介護福祉の専門学校で介護福祉士の国家資格を取得し、2007年から介護の世界に飛び込みました。
介護福祉士にはどうやってなるのか、介護福祉士の仕事や役割、野口さんが感じる「介護福祉士で大切なこと」などをわかりやすく教えてもらいました。

お話を伺った方

野口 清孝

一般社団法人佐賀県介護福祉士会 事務局長

野口 清孝

専門学校卒業後、社会福祉法人敬愛会に入社し、ユニットリーダーとして業務改善・ケアプラン・新人、中堅職員教育・目標管理を担当する。
その後福祉専門学校にて4年間介護教員として学生の指導・教育を行う。
現在、介護福祉士の業務に携わる一方、専門学校で講義を行いながら介護福祉士会事務局に携わる。

「介護の世界が向いているんじゃない?」と母に勧められて

ーー介護福祉士になったきっかけを教えてください。

高校は工業高校だったんですよ。特に技術を身につけたいということではなく、友だちがたくさん工業に進学するので「じゃあ僕も」という軽い気持ちでした(笑)。だから、技能検定3級機械加工(普通旋盤)の資格を持っています。
卒業間近になり、まだ就職はしたくないし、父はお寺のお坊さんだけどその道は気が進まない。迷っていると、母が「介護の世界が向いているんじゃない」と勧めてくれました。それがきっかけで、当時鳥栖市にあった専門学校に進学しました。

介護との関わりはそれまで全くなかったわけではなく、小学生の頃、夏休みなどになると、母が看護師として働いているデイサービスに付いて行っていました。利用者さんと一緒に折り紙をしたり、風船バレーをしたり、一緒になってコミュニケーションを取っていました。
実は人見知りで恥ずかしがり屋なんですが、母はそんな様子を見て「人に優しいから、向いている」と思ったようです。専門学校で2年間勉強し、国家資格「介護福祉士」を取得しました。

ーー現在はどんな仕事をしていますか。

ショートステイ(利用者さんが短期間宿泊するサービス)のユニットリーダーをしています。利用者さんの送迎や着替えなどの荷物のチェック、入浴や居室の清掃、レクリエーション、食事の盛り付け、配膳、服薬など幅広く行います。自宅での生活の延長として、施設でも家庭的な雰囲気の中で過ごしてもらえるよう、普段と変わらない生活リズムを心がけ、「また利用したい」と思ってもらえるようにサポートしています。

ショートステイを利用する理由は、将来、施設に入るための予行練習という人もいれば、家族が介護疲れで少し休みたい場合などさまざまです。認知症の方、サポートがあまり必要ない方など多様な利用者の方が1カ月の間に約30人利用します。短期間で個性が異なる利用者さんのことを把握して対応するためには、コミュニケーションスキルや介護技術が必要です。利用者さんと密に接する介護福祉士は、月に1回、担当のケアマネジャーに利用者さんの心身の状況を伝え、情報を共有することも大切な仕事の一つです。

現在の勤務は基本的に週5日で、1カ月に9日間の休みがあります。勤務形態は、早出が7時から16時、日勤が9時から17時、遅出は11時から20時で、それぞれ1時間の休憩があります。夜勤は17時から翌朝9時半までで、休憩は2時間です。事前に申告すれば長期休暇も可能です。私は休日を利用して介護福祉士会の事務作業や、関連学校の非常勤講師などを行うこともあります。

介護の仕事に就いて、気づけばほぼ毎日笑っている、と話す野口さん

一度、介護を専門的に学んだ方が楽しさや厳しさを知ることができる

ーー介護の仕事をする場合、介護福祉士の国家資格が必要ですか。

介護福祉士は、介護が必要な方のお世話をしたり、自立を支援する仕事です。介護福祉士の資格がなくても訪問介護など一部のサービスを除けば介護職員(介護士、介護スタッフと呼ばれることもあります)として身体介護や生活の援助はできますが、私が現在働いている施設では介護職員の約7割が介護福祉士の資格を持っています。

将来的にリーダー的な業務を担うためには介護福祉士の資格が必要になる職場が多いと思います。介護福祉士としての知識をベースに実務を数年経験し、その後、自分のステップアップにつながる各種研修を受けることができます。研修を受けると「頑張ろう」という気持ちになるし、働く上でのモチベーションも上がります。私の経験上、介護福祉士の国家資格を取ってからがこの業界の本当のスタートだと感じます。

介護施設に入職する前に、高校や専門学校、大学などで介護について学んだ知識があると、現場に出たとき、利用者さんへの対応がスムーズです。逆に知識のないまま入職し、介護や認知症の方の支援をすると「介護はきつい」という印象が強くなり、それが離職にもつながっていくのではないかと思っています。

ーー入職した後、資格を取ることはできますか。

できます。入職して実務を3年経験した後、実務者研修を受講し、国家試験を受けて合格すれば介護福祉士の資格を得ることができます。

出典 : 「社会福祉士・介護福祉等の施策情報」(厚生労働省) (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/shakai-kaigo-fukushi1/shakai-kaigo-fukushi5.html)

ただ、入職後に国家資格を取得する場合、介護について何も知らないところから始めて3年間働くのも大変ですが、それ以上に、テキストなどを取り寄せて就業時間以外に国家資格取得試験に向けて自力で勉強するのは大変だと思います。
個人的には、学校で一度介護福祉のことを学んで資格を取ってから実務に就いた方が、楽しさや厳しさも分かった上で介護の業務に就けるのではないかと思います。

現場での野口さんは和やかで明るく、利用者さんに慕われているようす

利用者対応の知識、自分自身のステップアップや

モチベーション維持に国家資格取得を

ーー具体的に介護福祉士としてのメリットはなんでしょうか。

経験上、介護福祉士の国家資格を取ってからがスタートです。介護業務に携わっていく上で、介護福祉士という資格は必要不可欠と感じます。
私は専門学校の教員をしていましたが、教員をするにも介護福祉士資格を取得してから5年以上の経験が必要です。ケアマネジャーも同様です。介護関連の資格を取るなら、まずは介護福祉士の資格を取得しないと自分の仕事面ではもちろん、給与面での待遇向上も期待しにくいと感じます。人材不足と言われる業界です。介護福祉士を取得してさまざまな資格を持っている人材は重宝されます。 就職、転職の際に資格の有無は必ず見られますし、介護施設で無資格から5年働いた人と、介護福祉士を持っていて5年働いた人では評価が高いのは後者の方です。資格は他者に自分を信頼してもらうためのものでもあると思います。
私が所属している介護福祉士会は、介護福祉士の資格がないと入会できません。介護業界がより働きやすくなるよう、国へ意見を提案する上で介護福祉士会の所属人数はとても重要です。どの業界もそうですが、現場の人たちが声を上げ、行動しないと業界は変わっていきません。そのためにも、介護福祉士を取得するメリットはたくさんあると思います。

持ち込まれる生活用具のチェックも日々の業務のひとつ

ーー野口さんが大切にしている介護福祉士の役割とはなんでしょうか。

利用者さん本人の「してみたい」「やってみよう」という生活意欲の維持や向上が、介護福祉士の役割だと思います。利用者さんが何もしたくないと思っていれば表情は曇り、心身の状態も落ちていく一方です。少しでも「これをしたい」「これは自分でやってみよう」という気持ちを持ってもらうことが大事です。

要介護になれば、誰かの手を借りることが多い生活となり、どうしても遠慮がちになってしまう方が多いのですが、生活の中で利用者さんにできることがあればお願いするようにしています。例えば入浴時に自分で洗える場所があるという人や、洗濯物がたためるという人には自分でするようにお願いしています。また、してもらったら、こちらから「ありがとうございます」「助かりました」と必ず言うようにしています。利用者さんが「自分は必要とされている」という気持ちになれば、意欲が向上していくのではないかと思います。
また、介護が必要な本人だけでなく、ご家族の相談に乗ることも大事な仕事の一つです。相談内容は、認知症のことから具体的な介護のことまでさまざまです。介護をする上での工夫や対応などの提案もしますが、まずは家族に共感し、一緒に考えていくことが大切だと思います。

ときには失敗もありますが、出会った方との縁を大切にして日々自身の成長を感じられる仕事だと思います。

介護の知識があることで利用者さんへの対応がスムーズに

自分自身がさまざまなことに興味を持ち、経験してコミュニケーションのきっかけに

ーー介護福祉士になるために必要なことはなんですか。

まず、人と関わることが好きなことでしょうか。利用者さんとコミュニケーションを図る上で、どんなことでもよいので、さまざまなことに興味を持ち、経験することが大事です。例えば、洋服が好きであれば、利用者さんの服装をきっかけに会話が進みます。植物が好きなら、季節のお花についてお話ができると思います。自分の興味が相手の関心につながることもあるので、いろんな経験を重ねるとよいと思います。

ーー介護福祉士のやりがいはなんですか。

日々、笑顔で過ごせることです。私はこの仕事に就いてなかったら、普段からこんなに笑うことはなかったと思います。 嫌なことももちろんありますが、気づけば毎日笑っています。笑顔で過ごせることが私にとって一番幸せなことです。

介護福祉士は、家族よりも利用者さんに長い時間関わり、その方の人生に寄り添える仕事です。要介護者であっても、人生の先輩である皆さんから人生を楽しく生きていけるアドバイスをたくさんもらっています。人に言えない悩みもたくさん聞いてもらえます。私は約17年介護業界にいますが、厳しい方もいれば優しい方もいました。たくさんの出会いとお別れもありました。そんな方々とのご縁があり、今の私がいると思っています。色んな方のやさしさに触れると、不思議と人に優しくなり、困っている方へ手を差し伸べたくなるものです。
介護に関しては、たくさん勉強し、知識や技術を高め続けることが必要ですが、その先に利用者さんの笑顔があると思うとやる気がわいてきます。

後輩から、「何を話したらいいか分からない」とよく聞かれますが、この仕事は話すというよりも聞く仕事だと思います。
「体調はどうですか?」「寒くないですか?」「暑くないですか?」それだけでまずは大丈夫です。話せなくてもいいんです。「笑顔」と「聞く」ことだけを意識して、「心の声やご本人の思いを引き出すことが一番大事だよ」とアドバイスしています。

現場での業務に加え、専門学校での講義や介護福祉士会の事務局の業務と、多忙な日々をこなす