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介護サービスのマンパワー不足、
優秀な外国人が即戦力に!!

春は桜やツツジ、秋は紅葉が美しい「蒲田自然公園」の目の前にある特別養護老人ホームすみれ園(杵島郡大町町)。
すみれ園のスタッフ総数は現在45人。そのうち介護スタッフは30人で、4人はミャンマー出身の女性です。利用者さんに声をかけながらテキパキと仕事を進める姿に、国籍は関係ありません。日本語コミュニケーション能力や仕事のスキルが高く、思いやりの心で高齢者に接する彼女たちは利用者にも好評です。
同園の黒岩正孝施設長に、外国人スタッフを受け入れたきっかけやその後の影響などを聞きました。

お話を伺った方

黒岩 正孝

社会福祉法人 聖仁会 特別養護老人ホーム すみれ園 施設長

黒岩 正孝

佐賀県老人福祉施設協議会 副会長。
大学卒業後7年間、佐賀県の臨時採用教職員として勤務。その後コンピューター業界に転職しソフトウエア開発に携わる。
特別養護老人ホームすみれ園が開設した1996(平成8)年4月に入園。
2013(平成25)年から現職。社会福祉士。大町町内の小中学生に剣道を教えている。

行政、大学、介護福祉関連施設が協力して外国人を受け入れ

ーー少子高齢化の影響や学生の興味が多様化し、介護の道を目指す人が少なくなっていると聞いています。介護現場でも外国人の受け入れが進んでいますが、すみれ園の外国人人材の受け入れ状況を教えてください。

外国人女性4人を受け入れています。全員ミャンマー出身です。1人が佐賀女子短期大学を卒業しこちらに就職した方。そのほか3名は特定技能実習生で、1名は2022(令和4)年4月から。2名が今年の7月に就職しました。
佐賀女子短期大学の卒業生は5年前、私がミャンマーを訪れて面接した上で入学前に採用を決めました。そうすることで当施設が留学時の受け入れ先となり、彼女が修学資金を借りる際の連帯保証人になるなどのサポートが可能になりました。同短大で介護福祉について学んだ後、介護福祉士国家資格を取得して3年前、当施設に就職し現場で活躍しています。

当施設で働いているミャンマーの方は真面目で、礼儀正しく、謙虚です。日本人と似ている点が多いですね。

利用者へ日本語で声かけを行いながら業務を行う

ーー受け入れの経緯やきっかけはどういうものでしたか?

ひと言でいえば人材不足です。介護福祉系を希望する学生の絶対数が少なく、当施設が職員を募集してもなかなか集まりませんでした。その一方で要介護者は増え続け、質の高い介護が求められています。しっかりと介護福祉を学んだ優秀な人材の確保が大きな課題でした。
そこで、外国人留学生に介護福祉を学び、資格取得までしてもらおうと、佐賀県と介護福祉系大学(短大)、就職先の受け皿となる当施設のような介護施設が連携し、留学生の身元を保証することで外国人を受け入れる環境を整えました。

留学生は自国で大学卒業後、約1年から1年半かけて日本語を学んでから日本に留学してきます。修学資金の貸付を受けて県内の大学で日本の介護福祉について学びながら施設で働き、介護福祉士国家資格の取得を目指します。資格を取得して、卒業後は施設に就職します。県内の介護現場で5年間勤務すれば、貸付金を返済する必要はありません。当施設がある大町町は過疎地域なので最低3年間働けば、返済不要です。
留学後の就職先が確保できているので、外国の方にも留学を促しやすく、日本でのキャリアアップの道筋を付けることにもつながります。

日本に慣れた同じ国出身のスタッフが協力することで働きやすい環境に

ーー外国人人材に対する他施設の状況はどうでしょうか。

どの施設も人材不足は同じです。この5年間で、即戦力として期待できる外国人留学生を求める施設が増え、優秀な外国人材獲得も大変になってきました。留学生数に対して、人材を欲しい施設の方が多いので、以前は2~3人は確保できていましたが、今は1人確保するのも運任せでやっとの状態です。

アパートを確保して、暮らしやすく働きやすい環境を整備

ーー外国人スタッフが働きやすいように工夫されていることはありますか?

一番気を使っているのは、日本人スタッフと外国人スタッフのコミュニケーションがうまく取れているかどうかです。
外国人留学生は介護に必要な用語などほぼ問題ないのですが、特定技能実習生は入所した当初は、日本語でのコミュニケーションが難しいですね。そこで、日本人スタッフと特定技能実習生のコミュニケーションがうまく取れるように、日本語が堪能なミャンマー人スタッフが通訳となっています。

ほかにも、大町町で生活するために不都合がないように多くのことに気を配っています。まずは住む場所です。当施設がある大町町には近隣にアパートが少なく、見つかっても非常に家賃が高いです。そこで県の補助金を利用して、当施設の敷地内にアパートを新設しました。ロフト付きのワンルームで広いですよ(笑)。家賃は、近隣物件の半額程度とリーズナブルに設定しています。すぐに生活できるように冷蔵庫などの家財や鍋など生活用品を準備して、佐賀の暮らしに困りごとがなく安心して、仕事に集中してもらえるよう環境を整えています。

敷地内に新造したワンルームアパート。ロフト付きで明るい雰囲気

ーー佐賀県に住むならば車は必要ですし、仕事でも運転する機会があるのではないですか。

仕事で車を運転することはありません。アパートから職場までは歩いてすぐですし、当施設から日用品や食材の買い物をするスーパーまでは3キロ程度の距離ですが特に問題なさそうで、たいていのことは自転車で事足りているようです。それでも、彼女たちの中で数人が運転免許証を取得しており、車で出かけることもあるようです。
ほかに、町内の100円バスを利用したり、自転車、自動車を上手に使い分けて生活しているようですね。このまま大町に馴染んで、結婚しても住み続けて、仕事をしてもらいたいと思いますね。

アパートは緑豊かで見晴らしが良い場所にあり良好な立地だ

日本語コミュニケーション力が高く、真面目で優しいと利用者にも好評

ーー利用者さまからの評価や感想(良い部分と課題)をお願いします。

特定技能実習生は日本語でのコミュニケーションに一部苦労する部分もあるようですが、日本の大学で学んだ介護福祉士の外国人人材は非常に優秀です。真面目で謙虚、礼儀正しくて声かけも優しく、利用者さんの評価も高いようです。
介護に向いている人柄が多いのは、ミャンマーのお国柄が、高齢者を敬う文化があるからかもしれません。

今後も続く外国人の雇用。長期就労可能な環境整備に努める

ーー外国人雇用について今後の展望をご紹介ください。

人材不足は少子化の問題だけでなく、就職しても離職者が多いことも要因の一つとしてあげられるのではないでしょうか。というのも、就職を希望される方の目的意識が以前とは違ってきているからです。以前は「人の役に立ちたい」「お年寄りが好きだから、介護をやりたい」という明確な意思があり、介護福祉の知識や技術を学んでから、就職していたと思います。でも今は「とりあえず介護の仕事をやってみよう」と軽い気持ちで就職し、結局自分に合わないからと離職する人が増えているように感じます。
このまま少子化が進み離職者が増え続けていくと予測すると、今後も外国人に頼ることが増えていくと思います。

それに、当施設のミャンマー人スタッフを見ていると、慣れない日本語で介護福祉の勉強をして資格を取って仕事を覚えようという意欲があります。留学生もこちらから指示をしなくても自ら動き、日本人のベテラン職員に近い仕事ができていると感じることがあります。周囲に気配り、目配りできる人も多いですね。

当初、私は外国人留学生の介護職の受け入れに関して懐疑的でした。でも、実際に一緒に働いてみると、コミュニケーション能力を含めて日本人と外国人との差を感じたことはありません。貴重な存在ですから、もっと自然に外国人を雇用していくのではないでしょうか。
残念なのは、特定技能実習生は在籍期間が5年というところ。スタッフとして育ったところで、新しい特定技能実習生と入れ替わってしまいます。国家資格を手にした外国人人材には長く勤務してキャリアを積み重ねてリーダー的な存在になってもらいたいですね。外国人留学生は就職後5年過ぎれば、貸付金の返済義務がなくなり、転出のハードルが下がります。
当施設を一筋に思ってもらえるように、さらに職場、生活環境を整えていけるよう心掛けたいと思います。

日本の佐賀を第二の故郷と思い末永く働いてくれることを願ってやまない