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お話を伺った方

陣内幸子（じんないさちこ）

ケア付有料老人ホームばんざい　施設長
祖母の自宅介護などの様子を見て、高齢者福祉へ興味を持ったことから福祉系の大学へ進学。卒業後は介護施設で経験を積み、9年後に独立。ケア付有料老人ホームばんざいを設立。

久保雅美（くぼまさみ）

ケア付有料老人ホームばんざい　主任生活相談員
祖母の死や、前職（サービス業）で高齢者に接する機会が多かったことから、介護業界へ興味を抱き、30歳を機に転職。入職後に介護福祉士となり、現職。

2007年に設立。施設名の『ばんざい』は喜びを表す最高の言葉であると共に、漢字で『万歳』という字が示すように、長寿を祝い・願う意味を持つことから名付けたという。利用者とスタッフがみんな笑顔で過ごせる日常を大切に、心身機能維持のためにリハビリにも積極的に取り組んでいる。ケア付有料老人ホームばんざいの施設長・陣内幸子さんと、主任生活相談員・久保雅美さんにお話を伺った。

介護を通して、大事な人生に関われることに感謝

日々、利用者と触れ合いながら、さまざまな発見ができる介護の仕事がとにかく好きだという２人。毎日、笑顔いっぱいで利用者との関わりを深めている。ケアを行う上で心がけていることを聞いてみた。

陣内幸子さん（以下、陣内） 「まず、長く歩んで来られた大事な人生に携わらせていただけることを、とても有難いと思っています。大切な役割を託してもらっているのですから、ご本人はもちろん、ご家族にも満足いただける時を過ごしていただきたい、という思いで関わらせてもらっています。そのためにも、利用者やご家族との距離感や関係性の構築を一番大切にしていて、家族のような身近な存在になれるよう常に心がけています」

利用者やその家族の身近な存在となるために、具体的に取り組んでいることを伺った。

久保雅美さん（以下、久保） 「ご家族には、普段の施設での様子が見えないことで募る不安もあると思います。だからこそ、利用者さんの様子をこちらから発信する義務があると考えています。特にコロナ禍になってからは、利用者さんとご家族の距離が離れてしまいました。この距離感を埋めるために、私たちがしっかり繋いでいくことが大切だと思い、ご家族に安心していただくためにも、ちょっとした体調の変化も逐一連絡を入れて状況をお伝えするなど、できる限りの情報発信を行なっています」

利用者さんの様子が分かるような写真をいっぱい載せた毎月発行の広報誌も、情報発信の一つだ。

陣内 「私が写真好きということもあり、毎日のように利用者さんを撮影しています。広報誌の中に写っている利用者さんを見つけて、“今月もお母さん元気にしている！良かった！”と思ってもらえる一枚を目指して、とにかくたくさんシャッターをきっています」

利用者さんの自然な表情がいいということで、「写真を遺影に使わせてほしい」というご家族からの希望をいただくことも多いという。

久保 「施設内ではいつも“ありがとう”の言葉が飛び交っていて、介護は感謝してもらうことが多い仕事である事を実感しています。関係性を構築していく中で、利用者さんやご家族からの『ここに入所して良かった』という言葉は、何にも代え難い喜びです」

臨機応変な対応力で目指す、利用者と家族の満足度向上

同施設には認知症の症状がある利用者さんも多く、介護の勉強で教わった教科書通りにいかないことや、予期しないこともよく起こるという。

陣内 「認知症という病気に興味を持ち、長年携わっていますが、経験を積めば積むほど、その症状は多種多様で、対応方法もさまざまだということを実感します。そんな中でも、利用者さんに伝わりやすい方法を常に考え、言葉選びはもちろん、抑揚やイントネーション、表情などのさまざまな要素を取り入れながらコミュニケーションをとるようにしています。昨日はAという声かけが良かったけれども今日はBだと伝わった、いうように日によっても変化しますので、常に学びの姿勢で臨機応変な対応を心がけています」

臨機応変な対応は、コロナ対応にも現れている。

陣内 「感染症に関してもしっかり学んだ上で、さまざまな感染対策をしながら、状況に応じて面会形態も変えたりしています。利用者さんが家族と触れ合える時間は限られていますので、特にご家族が遠方から来られた時などは、外のエントランスに出てマスクを外して記念撮影をしてもらうなど、なるべく近くで会えるように配慮しています。スタッフが守るべきルールは、絶対に変えることができないものはありますが、利用者さんの対応に関するルールは緩やかであるべきだと考えています。一度決めたらずっとそうしていくのではなく、スタッフやご家族からも良い提案があればどんどん取り入れるようにしています。利用者さんとご家族に満足いただける時を過ごしてもらうためにも、良いと思うことは許される範囲内でチャレンジしていきたいと思っています」

求めているのは、利用者の気持ちに寄り添える人

久保さんは、入社してすぐのスタッフの教育係を任されているという。指導する上で心がけていることを聞いてみた。

久保 「“なぜ、それを行なっているのか”ということを、しっかり説明するようにしています。例えば、通常のおやつの時間は15時なのに、一人の利用者さんだけ14時30分に食べているとしたら、その理由を説明するのです。物事の現状だけでなく、その根拠をはっきり伝えることで、利用者さんへの理解が深まり、スムーズなケアに繋がると感じています。また、指導するスタッフと指導を受けるスタッフで交換ノートを作って、指導状況の擦り合わせを行なっています」

陣内施設長も現場出身ということで、できる限り現場へ足を運び、スタッフへの声かけを行なっているという。

陣内 「直接スタッフと話をする機会を増やし、敷居の高い存在にならないように心がけています。悩みがあったら、抱え込まずに何でも相談できるような環境を作ることで、最近では、仕事のことだけでなく、プライベートのことも相談してくれるような関係性になりました」

現在は、介護福祉士、看護師などの専門職のスタッフを募集しているという同施設。面接の際に必ずする話があるという。

陣内 「面接の際には、必ず『あなたは自分の排泄物を人に見せたことがありますか』という質問をします。もちろん、みなさんの答えは『いいえ、ありません』です。そこで次のようなことを伝えます『ここの利用者さんも、誰だって自分の排泄物を見られるのは嫌です。でも、年をとって自分ではできなくなってしまったから、お世話を頼まれているのです。しかもお金を払って。本当は人に見せたくないものを見せなくてはならない、そんな利用者さんの気持ちに寄り添える人と一緒に仕事をしたいと思っています』。日本人だけでなく、外国人スタッフの面接の際もこの話をします。このような気持ちは、介護に携わる私たちが決して忘れてはいけない介護の真髄だと考えているからです。当施設では、常に利用者さんに寄り添うことのできる人、介護に楽しさややりがいを見出してくれる人を求めています」