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お話を伺った方

村島 保（むらしま たもつ）

ヘルパーステーション道の家 係長
陶磁器製造業の会社に約20年間勤務後、現法人の創業期に就労支援員・介護職員として就職し現在に至る。

特定非営利活動法人ゆとり（以下、ゆとり）が展開する、複合的な介護と福祉の施設 新武雄在宅復帰への道の家（以下、道の家）。高齢者への幅広いサポートだけでなく、障害のある人の就労支援も行う、地域に根ざした複合施設だ。

サービスを広げてきた背景には、将来にわたり、地域に暮らす一人ひとりにとっての「家」のような存在になりたいという願いがある。ヘルパーステーション道の家で係長を務める村島 保さんにお話を伺った。

地域にとっての「家」でありたい

武雄市内にて複数の福祉事業を展開している、ゆとり。2007年に要介護者や障害のある方々を対象に、施設や病院への送迎を行う福祉有償運送事業を開始した。そこから事業を広げ、今では高齢者、障害のある人、子育て世代の支援と幅広い事業に取り組んでいる。

中核となるのが、高齢者や障害のある人の生活を支援する、複合的な介護と福祉の施設 道の家だ。

村島 保さん（以下、村島）「道の家では、利用者さん一人ひとりに寄り添った福祉サービスを提供しています。特に在宅での生活に不安を感じている方々を受け入れ、在宅復帰に向けた支援をしています。

高齢の方々には、有料老人ホーム、ヘルパーステーション、デイサービスなど。障害のある方々には、清掃や介助補助、調理補助、パソコンを使った事務作業などを通じて、一般企業への就職を後押しする就労支援をしています」

さらに施設内には、市の認可を受けた保育事業所もあるという。相互交流や地域住民との交流を大切にしている。この根底には、地域に住む人々が互いに支え合うための「家」でありたい、という思いがあると村島さんは話す。

ゆとりが介護のサービスで特に力を入れているのが、看取りケア。高齢になると病気などで入院が必要になり、最期を看取れない場合も多い。施設で看取りができる体制を取ることで、家族で過ごせる環境をつくっている。

村島「看護師が24時間体制で常駐し、地域の開業医とも連携していますので、何かあったら適切な医療を受けていただくことが可能です。利用者さんとご家族の方がすぐに面会できますので、ご家族から安心して任せていただいています。最期の看取りでまでご家族とゆっくり過ごしていただきたいと考えています」

程よい距離感で、居心地の良さをつくる

ゆとりの創業初期から働いている村島さんは、もともとは陶磁器を製造する会社に勤めていた。実は消極的な性格で、「自分から他人に話し掛けるのは苦手でした」と打ち明けてくれた。

村島「働き始めたとき、最初は挨拶程度しかできませんでした。経験もなかったので、与えられた仕事をやっていただけでしたね。しかし数年経って、介護経験のあるスタッフの一人が明るく楽しく、利用者さんに接しているのを見て『こういう接し方をしていいんだ』と気づいて、自分でも少しずつコミュニケーションを取るようになりました。

すると利用者さんたちから笑顔が出たり、話してくれたりすることが増えて。それを見て、これでいいんだと思えて、接し方が変わるきっかけになりましたね。

性格も少し変わったように思います。古くからの知り合いに会うと、私が冗談を口にすることに驚かれることもあります（笑）」

冗談を言ったり方言を取り入れたり、利用者の方との会話が弾む。

そんな村島さんが利用者と接するとき気をつけているのが、「寄り添う」こと。村島さんに限らず、ゆとりのスタッフは寄り添いを大切しているという。

村島「寄り添い方は人それぞれで、正解はありません。ただ、やっぱり第一は声かけです。日々の生活を楽しく過ごしてもらうことを心がけていて、利用者さんの笑顔が見られたり、利用者さんの方からお話いただいたりすることがある、それができたかなと感じます」

一方で、「程よい距離感」を取ることも意識している。

村島「例えば元気がなかったり、利用者さんの気分や体調が優れないこともあります。そんなとき、無理に笑顔になってもらおうと話しかけることはしません。ご家族の話など、身近な話題で会話しながら、気分が良くなるのを気長に待つようにしています」

ただ声をかけるだけではなく、利用者の表情やタイミングを見ながら、程よい距離で接していく。そんな細やかな心配りが伺える。

他にもゆとりでは、利用者に楽しんでもらうための努力を惜しまない。現在は新型コロナウイルス感染症のため縮小しているが、スタッフが趣向をこらしたイベントは大切にしているそうだ。

村島「利用者さんは季節ごとのイベントを楽しみにしています。夏祭りでは、感染予防に配慮しつつ、サックス演奏やダンスなどの催しを行いました。身体を動かす運動会やスイカ割りなども人気です」

隣接する保育事業所と協力して、園児と触れ合う機会も作っているそう。

村島「小さい子どもを見ると、利用者さんの顔がほころぶんですよね。同じ法人の中で、子育て支援事業をやっていることの相乗効果だと思います」

施設内には、子どもたちからのメッセージが。道の家ではさまざまな交流が生まれている。

天職と思える仕事を、ずっと続けたい

未経験で介護の業界に入り、やりがいを持って仕事に取り組む村島さん。自身の実体験から、「未経験からでも仕事で経験を積んでいけば、ケアの技術は身につけることができます」と話す。大事なのは、コミュニケーションが取れること、フレンドリーに話ができることだという。

村島「安心して働いてもらうために、ゆとりには充実した研修制度があります。法人内で月1回の研修を基本としつつ、特定のテーマを設定し外部から講師を招くこともあります」

研修のテーマについては、その時々に設定されるそう。令和になって介護・福祉の業界で特に重視されるようになったテーマは、虐待の防止だという。利用者との何気ないコミュニケーションが不適切なケアになっていないか。ゆとりでも施設内で勉強会を開いたり、法人内で委員会を設置したりと、未然に防ぐ取り組みをしているそうだ。

「リーダーの指導の下で経験を積めるので、未経験でも大丈夫」と話す村島さん

インタビューの最後に、村島さんにこれからの目標を尋ねた。村島さんはしばらく考えた後で「今の仕事をしっかりと続けていきたい」と答えてくれた。

村島「利用者さんから信頼していただいていると感じられることが増えました。『この仕事は天職かもしれない』と思えるようになりました。これからも利用者さんと笑顔で触れ合い、信頼してもらえるケアを目指していきたいです」

さまざまな職能を持つスタッフが連携。楽しそうな雰囲気が伝わってくる現場だった。

道の家には、さまざまなスタッフがいて、さまざまな利用者がいる。多様な人たちがみんなにとって心地いい空間をもつくりだしているのだと感じた。

そんな中で、自らの天職を見出した村島さん。村島さんをはじめ、道の家のスタッフは今日もきっと、利用者に優しいまなざしを向けているはずだ。その積み重ねが、地域にとって「家」のような安心感を作り上げていくに違いない。