Voice

お話を伺った方

脇山 梨絵（わきやま りえ）

看護小規模多機能むく　管理者・計画作成担当者
医療保険病棟で働いていた当時、同じ病院で働いていた現代表の佐伯からの誘いをうけ、合同会社MUKUの設立に参画。施設管理者、介護スタッフ、ケアマネジャーとして、施設内外で幅広く介護サービスを支えている。

「自分らしく生きられる人生」は、世代を問わず誰もが思い描くはず。しかし、なかなか上手くはいかないもの。たとえば、子育て中のお母さんたちに目を向けると、子どもがまだ小さいから、家事があるからと、社会での活躍を諦めてしまう方も少なくないはずだ。

そんな中、唐津市の合同会社MUKUが2017年から運営する看護小規模多機能むく（以下、むく）では、施設を利用する高齢者はもちろん、そこで働くスタッフにとっても、「自分らしく生きられること」を大切にした事業所運営が行われている。

その背景にあるのは、事業所立ち上げから抱いている「介護は暮らし」という想い。立ち上げメンバーでもあり、管理者・計画作成担当者の脇山 梨絵さんに、この事業所の特徴と、大切にしている想いについて伺った。

利用者一人ひとりの暮らしに向き合う介護サービス

むくは、「みんなで暮らす大きな家」がテーマの、無垢の木で作られた看護小規模多機能型居宅介護事業所。「カンタキ」と略されることもあるこの事業所形態は、訪問看護、訪問介護、通所、宿泊と様々なサービスを1つの事業所で提供する。そのため、利用者それぞれに寄り添った介護サービスが可能だ。

サービスの中で大切にしているのは、自社の理念「自分らしく生きる」に基づいた、一人ひとりに向き合った介護。

脇山 梨絵さん（以下、脇山）「私たちが大切にしているのは、ただ介護するのではなく、利用者さんそれぞれの足りないところを補うサービスのご提供。例えば訪問介護では、利用者さんが以前は一人でできていた料理や洗濯を、私たちスタッフが支えながら一緒に作業をします。全部やってしまうのではなく、お手伝いしながら一緒に日常の家事を行うイメージですね。中には、朝ごはんが作れないのでその時間だけ、むくに食べに来る利用者さんもいらっしゃいます。画一的なサービス提供ではなく、相手の身になって考え、普段の暮らしを支える向き合い方ですね」

同施設が提供する介護サービスの根本にあるのは、「介護は暮らし」という想い。その思いに至った背景には、この事業所を立ち上げた合同会社MUKU代表の佐伯 美智子さんと脇山さんの、前職で感じていた疑問がある。

脇山「代表の佐伯は、以前は病状が安定した後も継続的な治療を必要とする方が入院する療養病棟で作業療法士として働いていました。そこで、限られた時間の中でリハビリや介護をしても、その効果はあくまでリハビリ期間中にとどまり、実際の生活の中につながっていかない現状に疑問を感じていたそうです」

そして、脇山さん自身も、仕事と想いの乖離にわだかまりを感じていたそう。

脇山「私は以前、唐津市内の療養型病院で退院後の自立支援をしていました。職場のしがらみもあり、本当にその人のためになる仕事ができず、支えたい気持ちと実際の仕事が噛み合わず、モヤモヤした気持ちが続いていましたね。そんなときに、佐伯から誘われて、事業所立ち上げに参加しました。お互いに仕事や役割に疑問を持っていたからこそ、『利用者さんたちと一つの大きな家族のようになれる場所にしたい』と思いこの事業所を作りました」

子育て世代も、自分らしく活躍

「自分らしく生きる」という理念、そして「介護は暮らし」という想い。これらの軸は、スタッフにとっても大切なものだ。

良い介護サービスを提供するには、スタッフにも元気が必要。だからこそ、スタッフが元気に自分らしく働けるような職場環境づくりにも取り組んでいる。その1つが、子連れ出勤制度。

脇山「開業当初から子連れ出勤を取り入れ、子育て世代の活躍を後押ししています。女性のキャリアアップを支援していきたいですね。結婚や出産を境に、家事や育児から離れられず、自分のキャリアが止まってしまう女性も少なくないはず。家にこもりがちになって気持ちがふさぎ込んでしまう方も、社会で活躍するきっかけにつながればと思います」

むしろ子どもを連れてきてください、と話す脇山さん。実は、事業所に子どもがいると、利用者にとってもプラスの効果があるのだそう。

脇山「理由の1つは、成長していく子どもたちと一緒に過ごすことで、時間の軸ができて、利用者さんたちの変化がわかりやすくなること。これは、的確な介護プランのご提案にもつながりますね。

もう1つは、自然発生的にレクリエーションが生まれること。おばあちゃんが孫の世話をするような雰囲気で始まる自然な遊びは見ていて癒やされますし、スタッフが行うレクリエーションのとき以上に、いきいきした利用者さんを見られます」

介護に関わる資格を持たない人の採用も、子育て世代のキャリアアップに一役買っている。現在働いているスタッフも、3分の2が資格を持たず、介護業界未経験で入社したのだそう。

脇山「介護の仕事を通して、子育て中のお母さんがキャリアを積めるようにしていきたいですね。それだけでなく、介護はそれぞれが持つ事情に合わせて働ける仕事であってほしいです。そのために、仕事の相談をし合える雰囲気を作ったり、臨機応変にシフトを調整できるようにしたりと工夫しています。実際に、授業参観や子どもの送迎があるときは、私含めスタッフ同士で融通し合いながらシフトを調整していますね。みんなで協力し合う職場だからこそ、自分の仕事や自分の子どもに責任を持って対応できる方であれば、介護の資格や現場経験がなくても採用したいです」

さらに、資格取得支援制度を作って、事業所内のレベルアップも図ろうとしている。

脇山「国家資格『介護福祉士』の資格を取るための資格取得支援制度を作って、スタッフにも活用してもらっています。この資格は今後重要性が増してきますし、資格があることで仕事の幅も広がります。子育てしながらの取得は大変かもしれませんが、向上心のある人を応援したいですね」

たくさんの人と真剣に向き合うから、自分の力も育っていく

互いに支え合いながら、スタッフに対しても利用者に対しても、自分らしく生きることを大切にする、むく。今後新たな展開を予定しているのだそう。

脇山「他の法人とコラボレーションした新たな施設を準備中です。『放課後等デイサービス』と『看護小規模多機能事業所』を合わせた施設で、子どもからお年寄りまでの利用者が集います。今まで以上に、大きな家族が集うような場所になりそうですね。新たな施設ができた後、ここは『小規模多機能型居宅介護事業所』として機能していきます」

放課後等デイサービスとは、学校に就学している障害のある子どもに対し、日常生活での動作の習得や集団生活への適応に向けた支援を行う障害福祉サービスの1つ。放課後や夏休み、冬休みなどの長期休暇中に利用するサービスで、「障害のある子どもの学童」とも呼ばれている。

今後の事業展開で、さらに多くの人と関わり、向き合っていく職場になりそうだ。様々な利用者さんとその暮らし、ともに働くスタッフと向き合う職場だからこそ、「むくで働くことの大きなメリット」があると脇山さんは語る。

脇山「仕事の中で本当に幅広い経験を積めるのが特徴ですね。利用者さんのニーズと気持ちにいつも寄り添い、何が必要なのかを考え、柔軟に動く。スタッフ同士でもコミュニケーションを取りながら、臨機応変に介護の現場に向き合っていく。子どもを育てながら働く方は確かに大変かもしれませんが、ここで3年間きちんと働ければ、介護職に限らずどんな仕事にも進めると思います」

実際に、むくを卒業していった職員たちは、自らの意思で新たな道を歩みだす人も少なくない。

脇山「一緒に長く働いてむくを盛り上げてくれるスタッフがいるだけでなく、自分の道を見出す人もいます。元スタッフたちの中には、引き続き介護の道に進む人もいれば、経験を活かして異業種に進む人、起業に挑戦する人もいますね。仕事をする中で、自分で考え柔軟に対応する力が培われたからかもしれません。人生は一度きりだし、それぞれの道があります。私たちの事業所での仕事が、キャリアアップになり、自分らしく生きる人生につながってゆけば、一緒に働くスタッフとしても嬉しいですね」