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お話を伺った方

宮原恵美香（みやはらえみか）

特別養護老人ホーム南鷗荘　理事長兼荘長
1990年の特別養護老人ホーム南鷗荘開所の時から荘長を務める。前理事長の退任により2021年から現職。

川﨑祐貴（かわさきゆうき）

特別養護老人ホーム南鷗荘　主任生活相談員
姉が障がいをもっていたことで福祉関係への興味を持ち、福祉系の大学へ進学。卒業後に障がい者施設へ入職。その他の分野も勉強したいと考え、2014年に特別養護老人ホーム南鷗荘に生活相談員として入職。

内科医をしている理事長の夫が往診をしている中で、家族が忙しいという理由で自宅に一人寝かされている高齢者の様子を目にし、『自分が関わった患者さんは、最期まで見届けたい』という気持ちになったことが施設設立のきっかけになった。1989年に法人認可され、1990年4月に特別養護老人ホーム南鷗荘を開設。現在は、住宅型有料老人ホーム、デイサービス、ホームヘルプサービス、ショートステイサービス、居宅介護支援事業も展開している。今回は、特別養護老人ホーム南鷗荘・理事長兼荘長の宮原恵美香さんと、主任生活相談員の川﨑祐貴さんにお話を伺った。

マズローの欲求5段階説を生かした介護で、利用者の満足度向上を目指す

宮原理事長は、施設運営において大切なホスピタリティを語る際、アメリカの心理学者であるアブラハム・ハロルド・マズローが唱えた自己実現理論の話をするという。

宮原恵美香さん（以下、宮原）「利用者様の満足度の向上を目指す時、相手が何を求めているかを知ることはとても大切ですが、その助けとなってくれるのが“マズローの欲求5段階説”です。人間はさまざまな欲求を抱きますが、これらは環境の変化や心の動きによって段階があり、5つの階層のピラミッドで形づくられるとしています。これが“マズローの欲求5段階説”で、人は低い段階の欲求が一定水準満たされると、1つ上の階層の欲求を持つようになるといいます」

5段階のピラミッドは、最下層から次のように構成される。第1段階／生きるための基本的・本能的な欲求である食事・入浴・排泄・睡眠などの『生理的欲求』、第2段階／心身ともに健康で安全な環境で安心して暮らしたいと思う『安全・安定の欲求』、第3段階／集団への所属意識や愛情に関する『社会的欲求』、第4段階／存在と認められたいと思う『承認欲求』、第5段階／自分の可能性を広げて自己実現の達成を目指す『自己実現欲求』の5段階である。

宮原「第2段階までは物質的に解決できる欲求なのに対し、第3段階からは精神的欲求となります。この考え方は、介護において利用者さんが何を必要としているかを理解する上で、とても大切な知識だと思っています」

求めているのは、利用者さんの心に寄り添える人

利用者さんとの関わりで気をつけていること、心がけていることを聞いてみた。

川﨑祐貴さん（以下、川﨑）「利用者の大半が認知症ということで、常に不安を抱えている方が多いので、介助する時や何か行動する時には、必ず声かけをするように心がけています。例えば、お風呂の介助ひとつにしても、“今から頭を洗いますね”、“体を流しますね”という声かけが大事です。それがないと　利用者さんはびっくりされて、ますます不安な状態になってしまいます。ですから、少しでも不安を和らげるように、目線を合わせて声をかけることを大切にしています」

現在、介護スタッフ、看護師、ケアマネージャー、生活相談員を募集しているという。どのような人材を求めているか伺った。

宮原「大前提として、ご年配の方が好きという人です。マズローの法則でも分かるように、利用者さんを幸せにしていくのが私たちの役目なので、その気持ちに寄り添える方を求めています。これまで介護を経験されたことがない異業種の方でも大丈夫ですが、根っこに優しさを持ち、人と関わることが好きな方が向いていると思います。実際の介護の仕事は大変なことも多々あります。オムツ替えや食事介助、入浴介助などは身体的なサポートも必要になりますので、心があたたかい方じゃないと務まりません。そうじゃないと、利用者さんもその方も両方が不幸になってしまいます。そこが資格だけとってもうまくいかない部分です。気持ちの面がとても大切になってくると思っています」

介護未経験の方でも、入職してから勉強や経験を積んで資格取得している方も多いとのこと。

川﨑「入職後は、一定期間の研修期間を設けていて、理念から現場のことまで時間をかけて学んでいただきます。その後も、月ごとのテーマ別研修などがあり、実践と学びを繰り返すことでスキルアップを図っています」

目指すのは、誰もが働きやすい職場

働きやすい職場づくりを目指してさまざまな取り組みを行なっている同施設。

宮原「障がいのある方や外国人スタッフの登用、幅広い年齢層のスタッフの活躍など、SDGsへの取り組みも行なっています。また、育児休暇、介護休暇などの福利厚生にも力を入れており、子どもがまだ小さい時や家族に介護が必要な時などは、日勤だけとか短時間勤務とか、その方に応じた働き方にも対応しています」

川﨑「幅広い年齢層のスタッフが働いていますが、職員同士の関係性がいいのも、働きやすさにつながっていると感じます。日々、和気あいあいとした雰囲気で仕事をしています」

取材の数日前に、天皇誕生日に合わせて、御下賜金（ごかしきん）の伝達式があったという。優良な民間社会福祉施設に贈られるもので、年に一度、県内から一ヵ所だけが選ばれる。

宮原「この度は御下賜金を賜り、大変有難く思っています。今後も、安心して私たちに身を委ねていただき、心を開いて生活していただけるように、地域の拠点となって安心安全な生活に寄与していきたいと思います」